【ためスモインタビューvol.1】立山の里山で道づくりーー佐藤将貴さん
富山県立山町。
「立山連峰」「立山黒部アルペンルート」のことをご存知の方は多いのではないでしょうか。その「立山黒部アルペンルート」の玄関口が、富山県立山町です。
壮大な自然の残る立山町に、2014年、家族で移住してきた方がいらっしゃいました。今回お話を聞く、佐藤将貴さんです。
◎面白そうだったから、富山に移住してみた。
ーー佐藤さん、ご出身は兵庫県とのことですが、どういった経緯で立山町への移住を決められたのでしょうか。
一言で言えば、富山県上市町(立山町の隣)が舞台となった映画「おおかみこどもの雨と雪」の世界観に憧れたからです。
僕は営業職、妻は陶芸家として働き埼玉県に住んでいました。2012年に妻が「おおかみこどもの雨と雪」をみて感動し、2人とも白馬岳の山頂でしか足を踏み入れたことのなかった富山に移住ツアーで訪れてみることにしました。
ーー富山に移住した決め手は何だったのでしょうか?
1度目は南砺市のツアー、2度目に上市町と立山町のツアーに参加し、県内中を見て回りました。その中で、雪をかぶった立山連峰の壮大さに惹かれ、妻は陶芸の里新瀬戸地区に惹かれました。再度新瀬戸に足を運んだ1年後、この地区で地域おこし協力隊をやってみないかと妻に声がかかったのです。
ーー移住にはかなり勇気が要りましたか?
いえ、声がかかってから4ヶ月後には、もう立山町に移住を完了していましたよ。決断できた理由は「面白そうだから」(笑)。
富山に行ってダメなら、故郷である神戸に帰ればいい。とりあえずバットを振ってみようという気持ちでした。
ーー佐藤さんご自身はどのように転職活動されたのですか?
県内の転職フェアを訪れて、全国転勤がないこと、前職の経験を生かせる仕事であることを条件に仕事を探しました。すんなりと富山県の商社に転職することができました。
◎妻が始めた「立山Craft」が大盛況
▲奥さん・佐藤みどりさん作のコーヒーカップ
ーー地域おこし協力隊として、奥さんが始められたのがクラフトフェア「立山Craft(クラフト)」だったんですね。
はい。立山町では、妻の移住前から越中瀬戸焼の5名の作家が「かなくれ会」を結成し活躍されていました。全国の陶芸家の人にも、この土地のことを知って欲しい、陶芸だけでなく、物作りに関心の高い人にこの土地に足を運んでもらいたい。土地の良さを少しでも知ってもらいたいーーそんな思いでこのイベントは生まれました。
ーー今年で7回目の開催となる「立山Craft」ですが、大人気のイベントとなっていますよね。
コロナ前には2日間で15,000人が来場する立山町で一番大きなイベントに成長しました。妻は地域おこし協力隊の任期が終わってからも、NPO法人を立ち上げて毎年開催しています。
◎僕も、新しい挑戦をしよう
▲佐藤さんの挑戦の舞台は里山。
ーー佐藤さんはそんな奥さまのご活躍をどのように見ておられましたか?
妻が面白い取り組みをしてくれたことで、我が家にはいろんな人が遊びに来るようになりました。和紙職人、ガラス職人、木工職人、動画クリエイター……。僕のようなサラリーマンはいませんでした。会社で出会う人とは全くちがうコミュニティと出会えたことで、僕の価値観も変わっていくことになります。
そして、妻は大ヒットイベント「立山Craft」の発起人として、様々な媒体で取材され、どんどん箔が付いていくわけですよ(笑)。さらに、妻が富山県の地域おこし協力隊として初代最優秀グランプリをとるんです。それを見て、このままサラリーマンとして働いていても、僕がこの種の拍手を送ってもらえる日は来ないだろうと感じたのです。
ーーそして、佐藤さんの挑戦が始まるわけですね。
そうです。きっかけは今の自宅での暮らしでした。
陶芸ができる広い家を探していたところ、300坪でなんと600万円の家を見つけました。高級車より安いんです。
▲自宅での贅沢な時間
ーー都会では考えられませんね…!
とても景色の美しい家なんです。集落から離れていて、半径150mに家がなく、田んぼに囲まれています。富山平野まで見渡せるので、朝日も夕日も美しく、立山連峰も眺められる。雨が降っても水墨画のような風景が楽しめる。
朝日に輝く立山連峰を眺めながら、コーヒー豆をひき、湧き水を沸かして煎れる…。毎朝、自然の時間の流れを感じられます。
ーーなんと贅沢な時間…。
田舎暮らしって、価値があるものだと痛感しましたね。売上、効率、納期に追われる日常とは違う時間の流れが確実にあると感じました。
そこで、自分が享受している里山の暮らしを他の人に知ってもらおうと決意しました。この地域は、ご多分に漏れず少子化・人口減少が進んでいます。僕が毎日もらっている景観のプレゼントも、田んぼを耕す人がいなくなれば失われてしまいますし、最近では獣害も増えてきました。
▲佐藤さんの自宅は田んぼに囲まれている
ーー里山の暮らしを伝えるための佐藤さんの挑戦は、どのように始まったんのでしょうか。
地元の人たちと「この地域がもっと良くなるにはどうしたらいいんだろう」と語らうようになりました。そんな時、「あんた、自転車好きなら里山にマウンテンバイクで走れるコースを作ったらどうや?」と地域のおじさんに言われたんです。「それ、面白そう!」と思って、やることにしました。
ーー本当に、決意から行動までが早いですね(笑)。
電動アシスト付きのEマウンテンバイクならば、誰でも上り坂を問題なく登ることができ、里山の世界を気軽に楽しんでもらえるのではと考えました。
さらに、昔の観光地や伝説、産業、立山信仰(立山の山岳信仰)について調べました。「立山町史」には修験者たちが、かつてアルペンルート以外の登山道を通って、室堂の方まで歩いていたということが記載されています。
そこで、今はもう使われていない修験道を復活し、修験者たちがかつて歩いた道をマウンテンバイクに乗って探索するというアイデアを思いつき、いろんなところに掛け合ってみたのですが、誰も相手にしてくれませんでした(笑)
▲Eマウンテンバイクの準備も整った
ーーものすごく面白そうなアイデアなのに!
アイデアだけだとなんの意味もないんですよね。
そこで朝4時に山に入り、フィールドワークを行いました。そして、まずは整備を自分の手でやることに。まず候補の2キロの道を半年間かけて、一人で整備しました。
ーーお一人で、2キロも!?
道を作ってから役場や街の人に話すと、「お前バカか!」と言われながらも話が進むようになりました。
ーー道の整備、大変だったでしょう…?
何度ノコギリやクワが折れたかわかりません(笑)。
里山を調査する中で、里山には牧場跡、キャンプ場跡、洞窟など隠れたお宝がたくさんあることがわかりました。
◎これからの立山町
▲「道づくり」の途中で何度もノコギリが折れた
ーー佐藤さんのこれからの展望は?
ワーケーションで来る人、観光で訪れる人、地域の人が一緒になって「道づくり」ができたらいい。「道めぐり」は何度も経験できるけれど、「道づくり」はなかなか経験できない貴重なものです。
だから、「道めぐり」は無料ですが、一緒に道を開墾する「道づくり」は有料にしました。ひとりで半年間かけて2kmを開梱しましたが、10人いれば1ヶ月で終わるはずなんですよね(笑)。
こうして、里山に人の匂いがつくと、獣害対策にもなりますしね。
▲佐藤さんがマネージャーを務める1棟貸しの古民家宿「埜の家」
ーー佐藤さんの挑戦、これからどんどん大きくなっていきそうですね。
「僕の挑戦」で終わるのが一番よくないことなんですよ。秘境が、いろんな人の手によって活性化されることを望んでいます。「佐藤よりもうまくやれる!」という人がどんどん手を挙げて、立山町に若い人が集まり、新しい事業が始まっていくということを願っています。
ーー新しい事業に挑戦するって、なかなかハードルの高いことだと思うんですが。
僕って、起業していないんですよ。会社に勤めながら、いろんな人の手を借りながら、自分のアイデアを実行に移してきました。だから、挑戦をするために会社を辞める必要はないと思っています。そして、これから新しい人が立山町で「何か」を始めてくれたらすごく嬉しいです。
今、僕の暮らす立山町上東地区ではたくさんの面白いプロジェクトが進行しています。例えば、前田薬品工業が作った美と健康をテーマとした複合施設「ヘルジアンウッド」、廃校となった小学校を利活用したIT交流施設「谷口集学校」、そしてドンペリニヨンの元醸造最高責任者が日本酒づくりを行う酒蔵「白岩」など、立山町の外から来た人が、立山で挑戦を始めています。
僕は移住者として、地域の人と地域外の人ををつなぐ役を担っていきたい。今、マネージャーを務めている1棟貸しの古民家宿「埜の家(ののいえ)」が、交流の拠点になれれば嬉しいです。
立山町にオープンしたヘルジアンウッドの様子
ーー移住者の先輩として、富山での暮らしのリアルを教えてください。
太平洋側での生活に慣れている人にとっては、富山の冬の曇天続きは正直辛かった。
でも、薪ストーブを作ったことで冬が待ち遠しくなりました。朝5時くらいから薪をくべて、炎をつける。北欧の冬のようです。だから、日本海側の冬が苦手な人も、薪ストーブがあれば解決です(笑)。
車を買うくらいの値段で『古いお家』は買えますし、場合によっては譲り受けることもできます。家のローンや家賃から解放されるだけで、描ける未来が自由になっていきますよ。
ーー最後に、富山県に興味を持っている方々へ一言お願いします。
みなさん、一緒に里山を冒険しましょう!
***
富山への移住を検討している方、富山でワーケーションしてみたい方、富山での暮らしは「ためスモ」パートナーが応援します。
まずは、佐藤さんとともに、立山の里山をマウンテンバイクで巡り、夢を語り、地域の人たちと交流してみませんか?
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