西加奈子「i」
アイも「自分は恵まれながら生きてはいけない人間だ」と常々考えていました。その影響もあり、世界の悲惨な現状に目を向け死者に謝り続けていました。
また、恵まれた生活を送ることができているのは自分が養子だからじゃないかと疑心暗鬼になりました。
そんないやらしい罪悪感を抱えてしまったアイが自分のアイデンティティを取り戻すストーリーだったと思います。
どばどばと泣いてしまうほど温かな言葉で綴られたミナからの手紙、 瑞々しく描かれたラストシーンは最高でしたね。とても美しかったです。
読み直してみて自分なりの解釈をまとめてみました。
「死者のことを思って苦しんでしまうけどこれでいいの?」
いいんだよ、想像することは「生きてる人間にしかできない」(297頁)。だから、死者や世界の誰かに思いを馳せている(想像している)アイは紛れもなく生きている人間なんだよ。アイはそれでいいんだよ。
むしろ想像してもらうことで心を取り戻せることがあるのはアイがよくわかっているでしょ。
でもこれだけ覚えておいて。「自分の幸せを願う気持ちとこの世界の誰かを思いやる気持ちは矛盾しない」(316頁)ってこと。
「虚数 i は存在しないの?」
バカもんが。存在するに決まっておろう。想像上の数字だとしても"そこに"存在したから i という形が与えられたんじゃ。これは普遍的な揺るぎない確固たる事実だから。
「養子だから恵まれていたんじゃないの?」
それはさしずめ「愛があるかどうか」や。愛があるかは本人にしかわからん。
でも愛があるから恵まれている、きっとそうだよ。
「愛されているからわたしは存在するの?」
愛はその人の「輪郭を、濃く、深く肯定」(285頁)しうるもの。愛するということは、あなたの存在を確実にとらえているからできること。愛されているから存在するのではない。存在しているから愛されることができるのよ。
アイ、あなたがいて、あなたが愛されているわ。
西加奈子「i 」(株式会社ポプラ社、2016年)
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