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西加奈子「くもをさがす」

 鮮明に描かれた西さんの体験が抽象的に自分の今と重なりました。寄り添ってもらえている感覚になりました。

 この本は病気になったときだけじゃなくて、あらゆる場面で救いの手になってくれる本だと思う。

 自分を苦しめているのは思い込みだったりする。 その思い込みを人生の大先輩方に、しかも自分よりも何倍も深く考え抜いた方々に取っ払ってもらえるのはものすごく安心しました。


 ある意味脅しともとれる広告や身に降りかかるネガティブなもののせいで喜びを奪われるべきではないと書かれていた。すごく印象的なフレーズ。
 年を取ることで若さを失いたくないと思ってしまう。そうすると、若さを維持することに注力してしまう。でもその一方で、得られたはずの喜びを手放してしまっていたらしい。


 アリ・スミスの「冬」から引用されている言葉がよかった(「くもをさがす」の100頁)。
「自分が置かれていた無力な状態あるいは無知な状態の深みから抜け出して水面に顔を出す瞬間ほど、人が生きていることはない、と。」
 筋トレが分かりやすい気がする。ぎりっぎりまでがんばった後のゼーハーゼーハー言ってるときって生きている感じする。そんなことない?


 西さんは、読書や瞑想で自分の中の"恐れ"を認識した。 恐れないのではなく、恐れがあることを抱きしめながら生きている。恐れを感じざるを得ない状況であっても。でもこんな状況だからこそ"生"を実感する。
 この部分は「わたしに会いたい」の一番最初の話(このタイトルも「わたしに会いたい」)と通ずるものがある気がした。



西加奈子「くもをさがす」(株式会社河出書房新社、2023年)
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