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頼まれてもないのに。その22(好きな本の話ーふたつよいことさてないものよ)


『こころの処方箋』という本の話をしようかなあ。

高校生の時に単行本で購入し、最近あらためて文庫本で購入したくらい好きな本です。著者は河合隼雄さん。数学科専攻の経歴を持ちながら日本におけるユング心理学の第一人者として名を馳せた臨床心理学者さんです。発する言葉の一つ一つが現場経験にかなり裏打ちされている方だという印象です。

55の短文が、そのまま格言として使えるような見出しとともに見開き2ページの分量で構成されており(もともとは雑誌連載とのこと)、難しいことは一切書かれていません。さまざまなエピソードを通しながら「人のこころとは?」について河合さんが思っていることが、読みやすく穏やかな筆致で表現されています。

個人的な思いとしては高校生には読んでおいてもらいたいかなあ。この本に書かれていることがベースにあるだけで、その後の人生への向き合い方が随分と楽になるような気がするんですよね。

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この本の55の見出し、その一つ一つが十分にキャッチ―で魅力的なのですが、その中でも特に最近の私がお気に入りにしているもの、それが「ふたつよいことさてないものよ」です。

ふたつよいことさてないものよ ー これは、ひとつよいことがあるとひとつ悪いことがあるもんだ、という意味でもあるんですけれども、ふたつ悪いことというのも、これまたないもんだ、という意味でもあるんですね。良いことがあればバランスを取るように悪いことが起きるものだし、悪いことだと思うようなできごとでもその周りをよくよく見晴らしてみると、その「悪いこと」のおかげで守られていることだとかうまいこと保たれていることだとかがあったりするもんです。

この視点をもってして自分のことや世の中のことを眺めてみると、また違ったものが見えてくることがあります。目先のことにいちいち青筋立てて文句ばっかり言い続け、果ては被害者意識のかたまりになって知らず知らずのうちにあちこちからひんしゅくを買っていた、なーんてことが格段に減るはずです。

ネット上でも涙ながらに文句たれてる人の大半、よくよく見るとその境遇、ずいぶんと恵まれてるんですよねえ。恵まれた上での不運。恵まれてなければ絶対に襲ってこない不運ばっかりじゃないか。いやいいんですよ文句言えば。辛いのは事実だもの。心のはけ口をどこかに確保することはきわめて大事。でもさそれらの主張があまりに過剰かつ無差別爆撃すぎるとね、だったら今持ってるその境遇を手放せばいいじゃない、そしたらいっぺんに楽になるさ、って思うことがあるんです、正直。「あれもほしい、これもほしい、手に入るものぜんぶほしいの、でも嫌な思いは絶対いや」ってダダこねてるみたいにしか見えないことあるんですよ。そしてそんなお子ちゃまたちのダダにいちいち共感しては「物わかりのいい先進的な私」を気取ってる人たちもどうかと思いながら、ね。おっと日頃の愚痴になってしまった。いけないいけない。

まあそんな感じでですね「ふたつよいことさてないものよ」と思って世の中を眺めてみると、思っている以上に案外うまく回ってるものだなあと感心します。

だからまあ「(少なくとも私にとって)好ましくない」現状を変えようと思ったら、その影にある「誰かにとってはうまくいっているもの」「私にとっても実はとてもうまくいっているもの」をどこまで犠牲にしてもいいのか、やるならちゃんと目配りして一緒に調整するよう対処しなければ、まったく現実的ではないどころか、間違って実現しちゃった日にはいまさら取り返しがつかない事態に陥ってるかもしれないという。

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話を戻しましょう。

1日であっという間に読めちゃう分量ですが、毎日1章ずつ立ち止まり、吟味しながら読み進めたほうが滋味になるかもしれません。55の「格言」を毎日1つ、自分の体験、周りの人たちの困った言動と照らし合わせながら読み進めれば、2ヶ月たっぷり楽しめる本です。

そうそう「心の中の勝負は51対49のことが多い」も好きな言葉のひとつです。ん、それってどういうこと? 興味があったらぜひ手に取ってみて。



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