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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『温泉宿』川端康成著~

タイトル:畜生!(ちっくしょう~!)


温泉宿に働く女性たち(女中や酌婦)の悲哀をあらわした作品。
温泉宿というと聞こえはいいが、要は淫売婦をかかえているいかがわしい宿のこと。
一般に昔の「温泉宿」というと、やや暗めで時間がゆっくりと動くような場所というイメージがある。さらに、そこで働く人たちも「わけあり」の人が多く、お互いにプライバシーには深くかかわらないことが暗黙の了解であるように勝手に思っていた。
しかし、この作品はちょっとニュアンスが違っている。悲哀の中にも明るさが感じられる作品である。
 
話は、お滝を中心に、お雪をはじめとした女中たち、酌婦のお清・お咲との関わりへと進んでいくが、お滝の強い個性による絡みがこの作品を興味深いものにしている。
とにかくお滝のポジショニングは絶妙である。
ある時は母親であり、父親であり主人でもある。そして味方であり敵である。
登場人物との関わりをうまくあらわしながらも、ストーリーテラーのように話を前に前にと進めている。
 
さらに面白いのは、お滝から発せられる「畜生」という言葉。
ここは行間を読みながら、お滝の気持ちを類推するしかないが、この言葉が発せられた時は、お滝の心の強い動きがあり、読み手としても引き込まれる場面である。
まずは、話にのせられて処女を奪われた時。その悲しさと悔しさから発せられる。
次は、吾八を陥れたお芳に対する怒りの言葉。
そしてお芳を助けようとした倉吉に向けての怒り。
前から注意するようにいっていた倉吉にお雪が引っかかったことに対する怒りと落胆。
しかも、後の手紙によるとお雪は捨てられ、男を転々と廻された挙句に売られたらしいと。
特にお雪に対しては子供のようにかわいがっていただけにその落胆は言葉以上のものがあったものと思われる。
 
また記載はなかったが、お清の葬儀に関係した男たちが誰も弔いに来なかったり、お咲自身も弔う気配を感じない様子をみて、お滝は心の中で思いっきり「畜生~」と叫んでいたに違いない。

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