落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『冬の往来』志賀直哉著~
描写の巧みな志賀直哉ならではの作品と感じた。
個人的に作品の中で注目したのは、岸本と中津の「しらけた気持ち」と薫さんの「しかめっ面」。
薫さんに強い好意を持ちながらも「家出→妊娠報告」と「娘との結婚の打診」から、自分の思いと薫さんの考えとのギャップに、一気に心が引いてしまった。
多少なりとも二人の男の「覚めてしまった」気持ちは読み取れる。
ただ、岸本と中津。この二人の覚め方には違いがあるように思う。
ひと言で言えば、「割り切る男」(岸本)と「あきらめの悪い男」(中津)の違い。
片や薫さんとの関係に筋を通そうとする岸本。片や気持ちは引いてしまったものの、依然として未練たっぷりの中津。中津は、優柔不断なところもあるようで「グズ男」のように思われる。
その一方で、薫さんの「しかめっ面」。作品の前半と最後にこの言葉の記載がある。
「しかめっ面」とは機嫌の悪いときにでる表情。確かに埃が薫さんの顔にかかってしまったということもあるが、中津を認めた後も決して笑顔にはならず、しかめっ面が続く。
「いつぞやは、よくも私のお願いを断ってくれたわね」ということなのだろうか。
もしこの「しかめっ面」がそういうことであるならば、薫さんは「引きずる女」ということだ。
男女関係はシンプルなようで実はとてもややこしい。
まして、ほんの些細なことからでも、お互いの感情にもつれやすれ違いがあった時には、男女の関係は一気に「修復できないエラー」に陥る。
自分自身のごくごく乏しい経験からもそう思う。
しかし、こういう話はとかく酒の肴になりやすい。外野は好き勝手を言う。
果して「私」はそれから中津にどのようにアドバイスしたのだろうか。
というか、グズグズしている中津の話から、ちゃっかり自分の作品にしている。さすが、である。