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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『ハンチバック』市川沙央著~

ご存じ第169回芥川賞受賞作。
主人公・井沢釈華はミオチュブラー・ミオパチーという病(作者と同じ病名)で、背骨は右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。吸引器・電動車いすなどの医療機器も生活には欠かせない。
両親が遺したグループホームの、10畳ほどの部屋で、大学の通信課程と風俗ライターのアルバイトをして暮らしている。
 
ひと言でどう表現していいか。うまくあらわすことはできないが、
「重度障害者である作者が、障害を背景とした制約された生活を通じて、自らの知見でもって、自らの考える『世界』をあらわした作品」
とでもいおうか。
読み込みの深い方は、おそらくもっと適切な表現をされると思うが、いかんせん読書初級者の自分にはそこが限界。そう感じさせるほど、ある意味、とても難解であった。
 
『世界』は正直言って理解できないものばかり。
例えば「普通の人間の女のように子供を宿して中絶するのが私の夢です」という言葉。
また「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」というものも。
 
性的な話を話題にしながら、「障害者は不自由な側面も多々あるが、健常者(こういう表現は不適切かもしれないが)同様の可能性・生き方・人間としての尊厳があるはずだ」というテーマが、この作品の背景にはあるように思う。
「隣人の彼女のように生きること。私はそこにこそ人間の尊厳があると思う。本当の涅槃がそこにある。私はまだそこまで辿り着けない」(P80)
この一節に、作者の強いメッセージを感じた。
 
一方で、この作品の性描写。「障害者と性」という問題について一石を投じた、とは言えないか。
最近でこそ変わってきたが、これまでの日本は性についてなかなかオープンに語れる環境ではなかった。まして障害者の性についてはほとんど耳にしたことはない。
あえて公にすることもないが、当事者との間でもっとオープンに語り合える環境も必要なように思う。難しいところもあると思うが、とにかく「ブラックボックス」のままではいけない。

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