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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『白い満月』川端康成著~

きわめて奇怪な話だった。
この話の裏側にあるもの。それは「嫉妬」ではないかと考える。
「嫉妬」は108ある煩悩の中の一つであり、人間として最後まで残るものらしい。
『白い満月』という作品に照らし合わせると、主な登場人物の嫉妬が読み取れる。
 
主人公・私:父の体質を受け継いだことによる妹たちに対する健康への嫉妬
お夏:「どうせ私なんてどうなってもいいんです」という自己効力感のなさによる世間への嫉妬
八重子:自分が不要となり譲り渡したものを有効な形にする妹・静江に対する嫉妬
    楽しそうに生活している兄とお夏に対する嫉妬(推定)
静江:姉のおさがりである夫が八重子に復縁を迫ったこと、八重子の策略(推定)に対する嫉妬
 
ただ重要なのは、嫉妬という感情をそれぞれが自覚しているかどうかということ。
特にややこしいのは八重子。おそらく自分では認識していないだろう。ただ無意識の中でも「嫉妬」が「怨念」に形を変え、最終的に静江を死に至らしめ、さらになお兄とお夏を亡き者にしようとしているように思う。
身近な者の幸せが気に入らない。それをどう壊すか。一見他人を気にするようで、妬みの感情が無意識の中にも生まれてくるのだろう。八重子からは、そんな底意地の悪さを感じる。しかも悪知恵が働きそう。
つまり「一個の存在に対する敬意」といいながら、実際には「一個の存在に対する嫉妬」となっている。そこにこの作品の気味悪さ、そして面白さを感じる。
 
気の毒なのは静江。常に八重子の言いなりであり、身の回りのものから男までみなおさがりが来る。作品の中では「芥溜」とも書かれていた。中でも信じていた(と思われる)夫が八重子に復縁を迫った事実を目の当たりにするにあたって、これまでの身の上を冷静に客観視する。大学生と夫との決闘の茶番も含め、実は八重子に仕組まれたもの。真実を知ることで、八重子に対する嫉妬、そしてこれからの自分の人生に「絶望」を感じ、死に至ったものと思われる。もっとも推測の域を過ぎないが。
 
『白い満月』とは薄明かりのこと。人間にとって最後まですっきりとすることのない「嫉妬」という煩悩をテーマにしたように思う。見方によっては怖い作品でもある。

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