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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『戦争と平和』第三部第三篇 トルストイ著~

ほぼほぼ戦争中心の章であったが、やはり特筆すべきは、意識朦朧とするアンドレイ公爵の登場から、ナターシャとの再会に至るまでのシーンだろう。それほど多くが語られているわけではないが、この中にある「愛」をキーワードとした言葉や心の動きは非常に興味深い。
何となくではあるが、『戦争と平和』のサブタイトルとして「ある愛の形」というメッセージが隠されているような気がする。
 
そもそもアンドレイ公爵はナポレオンを崇拝していた。偉くなってナポレオンのような存在になることを目標にしていた。
それが、戦場での経験や混沌とした軍隊組織などを目の当たりにすることによって、人生観も大きく変化することになる。さらに瀕死の重傷を負うことで、より深く生と死を見つめることになる。そして愛のあり方を再発見する。包帯所で見た、憎むべきアナトーリの苦しむ姿。それがアンドレイ公爵に愛をイメージさせることになる。
(引用はじめ)
隣人を愛し、敵を愛する。すべてを愛することは-----あらゆる姿であらわれる神を愛することだ。親しい人間を愛することは人間の愛でできるが、しかし敵を愛することは神の愛をもってしかできぬ。だからこそ、あの男を愛していることを感じたとき、おれは言い知れぬ喜びをおぼえたのだ。(新潮文庫P714)
(引用終わり)
このフレーズは実に印象深い。
敵味方、憎しみを超越した神の愛。そこにこの作品のテーマがあると思う。
 
またナターシャと再会したアンドレイ公爵。
「おゆるしくださいませ!」というナターシャに対して、「あなたを愛しています」「何をゆるすのです?」(P717)という言葉も感慨深い。まさに憎しみを超越した言葉ではないか。
「名誉」を何より重んじていたアンドレイ公爵。ナターシャとの出会いから「愛」を知り、裏切られたのちの再会で「真実の愛」「神の愛」を語る。
新潮文庫版ではここで第三巻がおわり、次から第四巻に移る。
「愛」の形はどのように映し出されていくか。楽しみである。

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