見出し画像

落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『どくとるマンボウ青春記』北杜夫著~

<<感想>>
戦後間もない著者の旧制高校(旧制松本高校)の生活を中心に、大学(東北大学医学部)生活までをユーモアを交えながら、エッセイ風に書かれた青春の記録である。
驚いたのはその読書量である。「毎月、二、三十冊の本を読んだ」とのこと。
血は争えないのか、文学の血が騒いだようだ。古今東西の文学作品を読破したようである。
書の中でも数々の名作の名前が書かれている。
それにしても、いったいどうしたらそんなに読むことができるのか不思議に感じた。
結果的に、この記録は「親の期待(立派な医師になること)に反して、文学にも手をだすきっかけ、軌跡を書かれたもの」なのだろう。
 
著書全体に感じるのは、戦後という厳しい環境の中にあって力みがないことだ。緩やかさの中で生活を楽しんでいるように思う。
これは著者の表現力つまり「技術」の問題か、はたまた「著者の資質」の問題か。
笑える場面が多いのが特徴である。
例えば、大学時代の試験対策の要領、割り切りのよさ。
試験直前になって、「合格点(60点)を取る」ための勉強をする。
すばらしいのはそのための「仕組み・仕掛けづくり」である。
真面目に授業に出てきれいにノートをとる友人宅に試験前になると入りびたり、友人のノートを参考に「60点」とれる範囲での抜粋を作る。
また上級生から前年、前々年の問題を確認する一方で、担当教授の心理に同化してヤマをはる。
さらには試験中に自分が何点くらいとれたかを見極める力があったため、7割とれたらと思ったらすぐに途中退出する。5割くらいしかできないと思ったら、文学的才能を総動員させ、一のものを十くらいにして書いて提出したらしい。
 
最初から100点を目指さない。合格点を目指す。そ
のために、自分の回りの環境・資源、自分の特性を最大限に活用して数々の難局を難なくクリアしてきたということか。
だから試験勉強は直前に集中するだけで、それ以外は好きな文学に勤しむことができたわけだ。
そう考えると、著者・北杜夫という人は極めて「合理的」かつ「戦略的思考」の持ち主だったのではないか。個性のにじみ出た一冊だったと感じた。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?