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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『「不死」の講義』スティーブン・ケイヴ著 柴田裕之訳~

世界的な大規模講演会を開催している非営利団体TEDが無料配信している動画のうち、再生回数が258万回にもおよぶ人気哲学者スティーブン・ケイブ氏の講演内容をまとめたものである。
人類が希求してきた「不老不死」について歴史的・哲学的に分析し、具体的に4つの「不死のシナリオ」をあらわしながら、人生をより豊かに生きるための知恵を提案している。
 
「不死のシナリオ」の一つは「生き残り」シナリオである。
死を避けようと懸命に努力するというもの。具体的には、薬草や呪文、魔除けといった老化と病気を防ぐための高度に洗練された医学兼魔術の体系のことであり、現存するパピルス(古文書)にも延命と若返りの記載があるという。
第二には「蘇り」のシナリオ。
ミイラによる蘇生をはじめ、ゾンビ、キリストの復活が代表例である。特に宗教はこのシナリオの原点である。キリスト教の場合も、その初期には不死の霊魂に対する信仰ではなく、死と蘇りに対する信仰を必要としていた。
そして次に「霊魂」のシナリオ。
これは、死んだ後は魂が肉体から分離し、もっと霊的なものからなる未来(世界)を信じるというものである。人間中心的な見方から神中心の、現世とはまったく異なると思われる超越した世界のことである。
最後に「遺産(レガシー)」のシナリオ
物理的な身体の存続も非物質的な霊魂も必要とせず、その代わりにもっと間接的な形(名声や栄光、あるいは遺伝子という形)で未来まで存続することを主眼とするものである。
 
しかし、これらの4つのシナリオは太古以来の歴史と、無数の信奉者と、人類の文明を形作る計り知れない影響力を持っているが、どれも「永遠の生」には遠く及ばない。
重要なのは、五つ目の道としての「知恵のシナリオ」を追求することである。
ポイントは死への囚われに立ち向かうこと。つまり、死を恐れてはならないということである。そのための戦略の一つが「感謝の念」を持つことである。
「感謝の念」は人生の満足度、生気、幸福感、自尊心、楽観主義、希望、他者への共感、他者への有形・無形の援助を提供する積極性のような重大な結果と、明白な関連がある。
結論的には、死を受け入れ、死の必然性とともに感謝の念を持って生き残る道を見つけること。
そこに死を超越した新しいシナリオが生まれるものと考えている。

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