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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『将軍』芥川龍之介著~

<<感想>>
このところ社会派レポートに力が入り過ぎていたため、いわゆる文芸作品を読むのは久しぶりだ。
短編小説だが、「N将軍」についての4つのエピソードという形で書かれている。
「N将軍」とは誰か。時代設定などから考えるに「乃木将軍」と答えが出るのに、そんなに時間はかからなかった。
印象深かったのは、「N将軍に対する芥川の見方」と「4つめのエピソード(N将軍に対する世代間のイメージの違い)」である。おそらく芥川の主張でもあるのだろう。
 
そもそも乃木将軍は軍神扱いされていたが、賛否両論のある人だったようだ。芥川のN将軍に対する描き方は厳しいものがある。「大きな戦果をあげる一方で、その裏側に多くの兵士が亡くなっていたこと」「大和魂を訴え、部下に突撃や捕虜の惨殺を指示する」「浪花節と西洋人に対する迎合(デリカシーを気にする)」などなど。
戦争に兵士を送りこみ、多くの命を犠牲にしたことに対する芥川の怒りを、シニカルに(皮肉っぽく)描いている。
とは言っても、文中に「×××××」という表記が否定的な文脈の中で何か所も使われている。索引によると、「×××××」は「陛下のために」「お国のために」「御奉公」などを意味しており、それぞれに正直な気持ちがこのあとにつづられている。検閲を逃れるための表現だったようである。
 
また「4つめのエピソード」も面白い。
N将軍にお世話になった中村少将(N将軍とともにした時は軍参謀中村少佐)は息子とN将軍について語り合う。
N将軍を尊敬してやまない父である中村少将に対して、息子は「偉い軍人なのだろうが、別にどうも思っていない」とのこと。
さらに息子との掛け合いは続くが、息子は父の言葉を結局は理解できない。
「時代の違いだね」と、中村少将の言葉。
この話は大正7年10月の設定。N将軍が亡くなってわずか7年しかたっていない時の話である。
戦争より民主主義。それが大正デモクラシーに沸く当時の若者の本音であり、芥川の主張ではなかったのではないか。

しかし、それから20余年後、日本は戦争状態に突入。逆に国威発揚のシンボルとしてN将軍が駆り出されたということはなんとも皮肉な話である。

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