ワクワクリベンジ読書のすすめ~『体験格差』今井悠介著~
貧困家庭の子ども支援のNPOを立ち上げた著者。子どもの「体験」という視点から調査を行い、家庭の経済状況が「体験したいと思ったら自由にできる」「体験したいと思ってもできない」という格差に関係しているという実態を導き出した。
そもそも子どもが外で遊ばなくなった。また子ども同士が大勢で遊ぶ機会も少なくなっている。自分が子どもの頃、50年以上も前の田舎での話になるが、学校から帰って公園に行けば、必ず誰かがいた。そこでよく野球をしたことを覚えている。別に正式な野球チームとしての練習をするわけではない。集まっている子ども同士で即席のチームを作って遊ぶ、いわゆる「野球ゲームごっこ」である。
今から思えば、そこで子どもなりに、ルールやコミュニケーションという社会性を学ぶことができた。
しかし、時代は変わった。子どもが社会性を学ぶ入口は、昔のような子ども同士の「○○ごっこ」ではなく、親が関与した「△△体験」に変わってきていると考える。
問題は、冒頭にも記載したように、経済的理由が体験についての格差を助長するというもの。さらに体験は親の関わりが左右することから、お金だけではなく時間の支援も必要になってくる。
そこは特に低所得世帯には大きな負担となる。そんな中、貧困に苦しむ母子家庭の子どもが「どうしてもサッカーがしたいんです!」と、正座をして涙ながらに親に訴えたという。切実な話である。
また著書によると、子どもの体験の有無は「親自身の体験の有無」と大きく関係しているという。
未体験の親は子どもの体験に消極的なケースが多い。興味・関心すら示さないようにも思われる。
逆に体験者の親の場合、子どもにもすべて同じ体験をさせるのか。
余裕のある家庭はそうかもしれないが、一方で我慢させるといういい意味での躾も必要になる。オールOKではなく、自身の体験の中から、子どもにとっての必要性をどう判断するか、という視点も必要になるだろう。
経済的・時間的問題の他にも、親として「子ども視点からの体験の理解」「必要性についての冷静で的確な判断」「度量の深さ」などが試される問題ともいえる。
著者の提起した「体験格差」。今後ますます顕在化してくるだろう。
子どもの発達段階におけるひとつの社会的課題として、家庭(親)、社会のそれぞれに果たすべき大きな役割があることを痛切に感じた。