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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『コンビニ人間』村田沙耶香著~

コンビニに「音」はあるか。
 
主人公・恵子はコンビニのアルバイト一色の生活。長年の経験で、接客からレジ、オペレーションまで熟知したまさにコンビニのプロである。
私も主人公ほどではないにしても、仕事の関係で「コンビニ人間」の時期があった。その期間は、いわゆるコンビニ論だけではなく、コンビニエンスストア各社の戦略から商品開発、品揃え、システムなど徹底的に研究した。
寝ても覚めてもコンビニのことばかりを考えていた。
 
しかし、「音」という視点はまったく考えもしなかった。見落としていた。
確かにコンビニではBGMあり、最近ではオリジナルの衛星放送までも。
ただ主人公のいう「音」は、お客様が発するもの。声の内容(センテンス)、声の大きさやトーンだけではなく、何気ない仕草の中から生れるもの(ポケットの小銭など)も含む。
おそらく、それだけではないだろう。
メディアとしてのコンビニが発するメッセージも「音」に含まれているのだろう。
POPの表記、商品の並べ方(フェイスの取り方)などなど・・・・・・。
お店が、売場が、そして商品が発するものもイメージされていると思う。
またさらに言えば、店員の活気・意欲なども含まれるのかもしれない。
 
コンビニの「音」を構成する要素は実に多様である。
それを主人公は、長年の「店員」としての生活の中から愚直に学んでいたのだろう。
「身体で覚える」とはこういうことをいうのだろう。
 
最後に主人公がコンビニ退職後、他社の面接に行く際に近くのコンビニに立ち寄るシーンがある。
そこで「私にコンビニの『声』が流れ込んできた」という記載。
主人公は、ここで覚醒したのだろう。
これまで、女は家庭を持って、とか、子どもを産まないのなら働いて、、、、、、という縄文時代的な(このフレーズが筆者は好きなようだ)固定観念を一掃することができたのだと思われる。
 
結局、居候の男とは別れることになるが、もともと何の感情も関係もなかった相手だ。
なにより「コンビニ・プライド」(コンビニエンスストアの店員として誇りを持って働くこと)を今まで以上に力強く感じた主人公に、もはや迷いはないものと思う。
コンビニで働き続けるものと思われる。
まさに「ハッピーエンド」ではないか。

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