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たまたま舎、札幌支店つくりました

プロフィール写真を撮ってもらいたくて、写真家の文月ふみさんに撮ってもらいました。
「明日晴れそうだから、明日にしていい?」とふみさんから連絡をもらい、早めに就寝。
翌朝は4時に目覚めて、夏のパワーを閉じ込めたような朝日に照らされながら湖畔へと向かいました。

草原に佇むふみさんを見つけて、朝露に足元を濡らしながら近づき言いました。「今日、このあと札幌の部屋の契約なんだよね」

言ってよ!みたいな顔で驚くふみさんに被せるように、「記念になるからむしろいいなって思ったの」と返しました。旅立ちの朝の写真、どれもすばらしすぎたのでたくさん載せますね。

photo by fumitsuki fumi

たまたま舎をはじめて、もうすぐ4年。
知り合いもツテもなく、ポートフォリオを持って営業して回った移住当初を懐かしく思えるほど。周辺地域の自治体や農家、牧場、お店など、たくさんの「たまたま」をいただき、形にしてきました。

2024年の上半期で制作した本

2023年から始めたたまたま書店では、私の好きな本を置くだけでなく、これまで仕事で作った冊子を配布したり、自分で作った本を4冊販売できるようになりました。

企画・取材・執筆・編集・撮影を一人で行なっている、洞爺湖畔の新聞『LAKETIMES』は自分の代表作です。こんなに足を使って情報を掴んでいる同業者はいるのかな?と思いながら、誇りをもって作っています。時には高齢者サロンに潜入したり、通行人に話を聞くなど、歩きながら情報を探しています。

田舎で突然相手の懐に入り込むのは、難しいものがあります。仕事の技術だけでなく、自分自身の人間力も毎号試されているなぁと思っています。(それも含めての仕事力かも)

現在4号を制作中です。

いただく仕事に一つひとつ真剣に向き合ってきたら、この数年で自分にとても自信がつきました。私、このまま、目の前のことを愛して、愛を形にする力があれば、ずっとやっていけるかもと。

一方で、暮らしは落ち着くことがありませんでした。景色と自分のギャップが激しくて落ち込む日々。ありがたいことに仕事はとどまることなく、立ち止まる余裕はないままでした。


photo by fumitsuki fumi

じゃあ仕事を減らせばいいじゃないと言われれば、それもしたくなく。絵描きのマリナさんと出会って、一旦見ないようにしていた理想や夢たちがむくむくと膨れていったことは前回書いたとおり。働くことを通じて、自分を成長させることがいきがいだと気づいたのです。

正常に積み上げてきた自信と、膨れる理想と、消耗感と。働き続けたいけど、このままのやり方ではダメだと思いました。一度、何かを変えなければ。

さらに、自分自身の力を試してみたい。自分の力で、社会にもっと広く貢献したい。私はもっと、たくさんの人を喜ばせることができるのじゃないだろうか。そんなふうに思うようにもなりました。その先に浮かんできたのが、札幌との二拠点生活です。

photo by fumitsuki fumi

何かを選ぶことは、何かを捨てること。憧れた田舎に住んだこの数年間で、根を張ることの美しさと難しさをより思い知り、自分にはそれが得意ではないかもしれないことを突きつけられました。この小さな町に居続けないことで、失う信頼があるかもしれません。この決断をしてから半年、ずっとそのことばかり心配していました。

そのときたまたま手にした本に、こう書いてありました。

人間の根源的な欲求には、翼をもつことと根をもつことという、矛盾するものがあります。

『手づくりのアジール』青木真兵 p.102

私の気持ちは根源的なものだったのかと安心していると、真木悠介さんの文章を引用しながらこう続きました。

〈根をもつことと翼をもつこと〉をひとつのものとする道はある。それは全世界をふるさととすることだ。

そもそも、ある特定の地域ではなく「北海道」に強く惹かれて移住した私。前職の取材対象が北海道全域だったこと、北海道がテーマの本を作っていたことで、私の北海道愛はあたりまえのように心にあるものになっています。そうだ、私は洞爺湖だけじゃなくって、札幌だけでもなくて、北海道をふるさとにすればいいんだ!と気づきました。

改めて、本はちょうどそのときどきの悩みへの解を静かに携えて、開かれるのを待っていますね。

photo by fumitsuki fumi

二拠点生活を告げた町民たちの反応はあっさりとしたもので、「あなたが決めたことならそれが正解だよ」とさらりと言ってくれました。私の半年間の心配は杞憂だったことと、たくさんの愛を受け取っていることを改めて感じました。本当にいつも、ありがとうございます。

たまたま書店だって、集中してやりたい気持ちはたくさん。だけど、それは数年後でもきっとできる。今の自分の気持ちが向くほうに素直でいること。大切にしたいたまたま舎の舎訓です。

札幌に行ってやってみたいことが二つあります。
まず一つは、消耗感なく、健やかなまま働ける仕組みづくり、チームづくりをすること。
私は自分一人でできることが多く、それは田舎でとても重宝されるのですが、それが消耗の一因にもなっていました。とはいえ、外注するだけの予算は、田舎にはないことがほとんど。その点、都会はプロがたくさんいる場所です。

私の得意分野である「人や会社、お相手のよいところを見つけて、テーマを作り、形にして届ける」という強みは残しつつ、むしろそこに集中できる環境を整えて、チームを組んで仕事をしていきたいと思っています。カッコよく言えば、ディレクションや編集、ブランディングといった部分を強化していきたいと思っています。

photo by fumitsuki fumi

一人でやるのも好きなのですが、誰かと一緒にやるのは楽しくてもっと好きなのです。札幌で一緒にやってくださる、ライターやカメラマンなどと知り合えたらうれしいなと思っています。

そしてもう一つは、札幌で得た知見や人脈、そしていただいたお金を、よりクリエイティブでおもしろい本づくりに活かしていくことです。

2024年に結成した、デザイナーと印刷会社のユニット「さんおんプリントLABO」。ど田舎の山奥で、どれだけおもしろい本づくりができるか、実験しながら本づくりをしています。リソグラフで、印刷・断裁・製本まですべて自分たちでやった『speechless』を皮切りに、より面白い本を作っていきたいと思っているところ。この芽は必ず大きくしていきたいと思っています。

札幌ではまた0からのスタートで、不安もあるし、後ろ髪を引かれることもあります。
けれど、同じスタート地点からやってきた場所があります。今では大好きな人しかいない、大好きな場所になりました。洞爺湖を選んで、ほんとうによかった。帰ってくる場所がここなんて、なんていう贅沢。

photo by fumitsuki fumi



変わりゆくもの、変わらないもの、どちらも抱きしめながら前に進みます。もっと大好きな自分になれるように。もっと自分らしくいられる場所にたどりつけるまで。

私ならきっと大丈夫。札幌でも、温かくて大好きな人たちに囲まれて、大好きな仕事を、思う存分できる未来がくると信じています。

札幌の方たち、これからどうぞよろしくお願いします。



photo by fumitsuki fumi

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