見出し画像

05.そもそもずるいよ「クイズ番組」

12月20日だか21日に,ちょっと早めのクリスマスパーティーと称して男女4,50人の若者が集う。会費は男:6000円,女:4000円。ある人は本気で出会いを求め,ある人は良い相手がいたらいいなぁとカジュアルに構えて。
年齢が少し上の同性のクライアントがプライベートで主催するイベント。健全な集まりである。2年ほど前に開かれたそんなパーティ。

「タダで良いからおいでよ」

ちょっとだけ手伝ってね,と括弧書き付きの誘いを貰って,二つ返事で行くことにした。当時彼女と別れたばかりであったし,特にその日の予定もなかったし。何よりタダだし。

と,気軽に当日を迎えて指定された集合時間は開始時間の一時間半前。任された役はバーカウンターの管理役で,ちょっとどころではなく。しっかりとした無給のスタッフであった。

「スタッフやないですか!」
「だいじょうぶ,だいじょうぶ。康一君バー好きだって言ってたしお酒作れるでしょ?飲みたきゃ飲んでいいし,いい子がいたらLINEでも何でも交換したらいいからさ」

まぁ,そこで嫁と出会ったのだから考えようによっては安いもの,か,あるいはとても高かったってことになるのかもしれないのか。タダより高いものはないってね,縁起でもない。

そう,そこで嫁と出会った。

男子にはクラブかスペード。女子にはダイヤかハート。参加者には一人一枚入り口でトランプが配られて,パーティの序盤では手にしたカードをきっかけに,自身と同じ数字の異性のペアを探しながらの会話が繰り広げられていた。
中盤に入ると5人組をつくってポーカーの役をつくりましょうと司会進行役が誘導して「さあ,役ができたら前にきてくださーい」と強い手役のベスト3組はクリスマスプレゼントが貰えると発破がかかった。2・2・3・3・5なんかでツーペア。男性だけでスペードを5枚集めたフラッシュ組が笑いをとって,男女上手く混ぜ合わせた7・7・7・4・4でフルハウス。A・10・11・12・13でロイヤルストレートなんてツワモノ組も。

「何かあったら混じっていいからねー」

って,僕にもスペードの7が一枚渡されていたけれど,そんな間はなくただひたすら,カウンターで酒の準備とグラスの洗い物,ケータリングで用意されたブッフェの食事を出したり引いたりと忙しく動いていた。ハイボールとカシスオレンジ,ジントニックはオーダー前に先んじていくつかつくり置く。赤・白のスパークリングワインと生ビールはオーダーが来るたびにグラスに注ぐので,束の間の一言二言,女の子に声を掛けてスタッフながらにパーティを楽しんだ。

最後のゲームで,意中の異性に自分のカードを渡して,カードを一番集めた人にクリスマスプレゼントが渡される時間が設けられた。その中で一人,渡されるのを待つのではなく「カードちょうだい!」と,片っ端から男性に声を掛けている女子がいて,ひとしきりいろんなところからカードを回収したあと,カウンターにまで来てその子は言った。

「お兄さんもカード持ってる?」

嫁が出て行って二週間後に風邪をひいて,二日ほど寝込んでいる時に嫁と出会ったクリスマスパーティーの夢を見た。最後のゲームでカードを渡して「せっかくだからLINE交換しようよ」って交換して。二・三回飲みに行って,お互い彼氏彼女もいなかったしで付き合うようになって。結婚しないんだったら付き合ってたって意味ないって言いだして,別れそうになった時にそのまま結婚することにして。タイミングってあるんだなー,なんて呑気に思っていたらこのザマだ。

今日はちょっと元気も出てきたので,ボニーバタフライでちひろさんと薄めのハイボールを飲んでる。

「出てったすぐあとに四国に会いにった時にさ『なんで出て行ったか分かる?』って聞かれたんだよね」
「へー」
「『お金?生活費が少なかったとか?』って言ったんだよ。そしたら『そんなこともわからないんだね』って冷徹に言って黙ってさ」
「まぁその手の類のクイズは,なんて答えてもはずれだからね」
「ですか」
「日本で一番高い山は」
「え,なに?富士山?」
「でーすーがー。世界で一番高い山は何でしょう?だよ」
「ああ,そういうことか」
「お金だったとしても,お金だなんて言わないでしょうに」
「……そうか」

「とりあえず出て行ったそのあとすぐに四国に行ったのは正解だったかな」
「行って良かったんですかね」
「行って良かったに決まってるじゃない」

そうか。
なんで正解かは聞かなかった。

いただいたサポートは活動費につかわせていただきます!