_P1042313のコピー

はるの いのち(1)

2000年の7月、台風一過の夏の日、現在の窯がやってきた。

1歳に満たない息子を抱っこしながら、大々的な窯の搬入を眺めていたあの夏。工房コッチョリーノは、実はマンションの地下にある小さな部屋に、こっそりと佇んでおり。1.5トン以上ある窯を隣接地からクレーン車で吊って、さらに庭に鉄パイプの足場を組んで階段からおろす。

90年代のほとんどを、日伊を往復しながら修行生活を送っていた。ようやく東京での制作を決心をしたのは良いけれど、あの窯搬入の光景を見ながら、ワクワクどころか「たいへんなことになったな」と、ジリジリと暑い日なのに、客観的に冷めていた。


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こころと窯の温度

2019年の12月、予定していた個展を延期して、故障した窯の心臓部分である電気系統を新調。

こころと窯の温度を調整するのは、思ったよりたいへんで、正直なことを書けば、泣いた。理想の色、形に焼きあがった作品は、20年ぶりに初心に戻ったような新鮮さと「はるのいのち」がめばえたような感動がある。ギャラリーも作家を煽らずギリギリまで待ってくれ、家族は平然とした顔で家事をこなし、苛立ちを手で払ってくれる。本人の才能でなく、周囲の送風によって動いているのではないかな。


陶芸道をあるく

「はたらく」という形で陶芸道をあるく。

才能や戦略をも超越したものをもって進んでいるのだと思う。成功しているのか否か、そんなのずいぶん後になって考えればいい。不器用だし、うつわは生きているので、計画とか戦略はむり。死ぬ前に「ニマッ、おもしろかった!」と感想を言えればよいと思っているので、その準備をずっとしているようなものだ。死に場所に聞いてくれる人がいなくても、マカロニ刑事みたいに、ひとりごとで言おうと決めている。きっと、たぶん、窯の故障もそういう伏線であるのだろうなと。

2020年、工房コッチョリーノ20周年、そして窯は20歳。数でなく、いまできる限りをていねいに、作品に残したいのだよなあ。


コッチョリーノ(地球のかけら)
我妻珠美


あとがきコッチョリーノ 

▶︎この記事は、コッチョリーノ ブログ(地球のかけら)を書き下ろしたものです。ブログは作品の情報優先で、こちらは心情という甘辛いスパイスをもう少しだけふって書き直したものです。▶︎きつい、本当はこの道きついです。なにかを失っても減らしても中断しても、新しいものを抱えてみたり、なにかを変えないと心身ともに壊れます。▶︎社会や世界がおかしくなってきている昨今、はたらくということについて、しごとについて、家族で最近よく話す。なんともやるせないニュースが多い中、この道を歩きながらも人生あともう一回くらい、新鮮で驚くようなことしたいんだよねえと。▶︎窯が20年、文中に出てきた抱っこされていた息子が20歳。人間のわたしがあと20年生きていられるのかもわからない。2020年の成人式は、ハタチの息子のエネルギーを認める日だった。



「はるの いのち」我妻珠美 陶展

2020年 2月8日(土) - 16日(日)
11:00〜19:00 
*月曜定休(11日祝日は営業)

CROCO ART FACTORY
横浜市中区元町 1-71 メゾン元町2F
045-664-4078

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