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【百線一抄】046■因幡路をわたり交わる沖の松風-山陰本線

悠然と波が出入りする海辺を横に見て軽快に走る。一方で勾配にあ
らがいながら短いトンネルをいくつもくぐりぬけ、山間に息づく村
のあしを担う。壮大なローカル線とはよく言ったもので、何往復も
特急や快速が行き交うところもあれば、朝の通学時間帯の後は間隔
をグッと空けて昼前まで列車がないという区間も県境近くにある。

わりあい活気を感じる区間は京都口の嵯峨野線と呼ばれる地域と、
丹波・但馬の豊岡盆地、そして鳥取から松江、出雲市にかけて拡が
る因幡・出雲・石見エリアあたりか。特急列車が走り、少なくとも
普通列車も1時間に1本以上の割合で設定がある。京都口では幹線
なみの新型電車が走り、内陸部もJR型への世代交代が進んだ。伯
備線の電化によって近代化が進んだ松江周辺は、振子型特急列車が
飛び交う高速列車網の中心となって、山陰地区の広域流動を担う。

各地域を東西に結ぶ路線の形成にはかなり時間を要しており、山陽
路と比べても全通は1933年と30年以上遅い。戦後も設備投資
を進めて新駅の開業や行き違い施設の追加が進み、1961年には
待望の特急「まつかぜ」が走るようになった。後に区間が博多まで
延長され、文字通り山陰路を颯爽と駆け抜ける看板列車となった。

郵便荷物輸送がたけなわだった頃はどこでも見ることができた長大
区間を走破する客車列車は、ここ山陰本線でも何本もあった。遠く
へ乗り通すには時間がかかりすぎることもあって、特急や急行がお
もだった選択肢になるとともに数を減らしていくが、時刻表の上で
示される何十個もの発車時刻は、地味ではありながらも長大路線な
らではの風物詩であった。主要駅では、旅の魅力を語るのに欠かせ
ぬ駅弁が名を連ね、蟹に因んだ弁当類は各地の魅力を高めていた。

高速化事業が推進された区間では、振子型の特急列車が国鉄時代と
比較にならないぐらい短時間で各都市を結ぶようになった。博多行
の「まつかぜ」で3時間半を要した鳥取ー浜田間を、現在は3時間
未満で結ぶようになった。昔日のような鈍行列車は消えたが、結構
長距離を走破する快速や普通列車もまだまだ健在だ。時期が合えば
観光列車やクルーズ・トレインも走る。現在の山陰本線はスーパー
な風が因幡・出雲・石見と三つの「いの国」を飛び交う道なのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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