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星筐抄202302 (Hoshigatami Suits 202302) 初演にあたり

第35回現代邦楽作曲家連盟作品演奏会にて、正倉院復元楽器のための小品集「星筐抄230220」を中村かほるさん、中村華子さんとの共演で初演致しました。

正倉院復元楽器は雅楽のルーツということで、作曲にあたり、私は先達に倣って調絃や奏法等、現行雅楽の語法を起点に考えます。今回はそこから《絃のシルクロード》を遡ることをコンセプトに、唐由来の阮咸(げんかん)、中近東/インド由来の五絃琵琶の声に耳を傾けて、幻の吟遊詩人の歌を想い描きつつ、音楽の冒険に出ました。

国立劇場をはじめ、これまでの復元楽器演奏では、いわゆるオーケストラ編成の大合奏が多く、独奏で各々の魅力に触れていただく機会は限られました。今回、高崎芸術劇場での星筐抄公演に続き、演奏家共々、それぞれの楽器と対話の苦労を重ねて、舞台に臨み、ありそうでなかった曲の誕生に至りました。

《プログラムノート》
音楽の楽しみは、響きの宇宙に星座を見いだす歓びではないか、と私は考えます。『星筐』(ほしがたみ)は、創作した雅楽合奏のための作品にはじまり(平成十三年度国立劇場作曲コンクール第一位・文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞)、以後「心の筐に星を集めて」とのコンセプトのもとに連作として様々な形態の表現を模索しています。
現代邦楽作曲家連盟の作品演奏会では、2016年に『星筐III』として、国立劇場による復元で蘇った正倉院楽器・箜篌(くご)と笙三管による作品を初演いたしました。
正倉院復元楽器はいずれも繊細で、楽器の扱いや調律にも心と手間を十分にかける必要があります。しかしながら、楽器と対話するプロセスもまた、音楽を創造する喜びの一部です。
そして、木戸俊郎氏が「若き古代」に著された感動的な楽器の誕生(再生)から半世紀を経て、楽器たちはいよいよ成熟の時を迎えております。
今回は、そのコレクションの中から阮咸(げんかん)、五絃琵琶、竽(う)という楽器を取り上げ、古代の息吹を現代にお届けします。
正倉院復元絃楽器提供:国立劇場

「星筐抄230220」世界初演
1)「星筐VIII In a Spiral 」阮咸(げんかん)独奏のための (2022)
2)「星筐VIIII Singing on Camelback 」 五絃琵琶 独奏のための 初演
3)「星筐 X Winds of Eurasia 」竽・阮咸・五絃琵琶のための 初演

《楽曲解説》

1)「星筐VIII In a Spiral 」阮咸(げんかん)独奏のための (2022) 
阮咸は、雅楽の四絃琵琶に比べて柱(フレット)が沢山ありますが、なぜか中間の柱一つが抜けています。単なる欠損消失か、はたまた演奏上、音列上の効果を狙った故意の仕様か?謎が作曲のヒントになります。絃楽器は、ギターのように直接指で弾いたり、ピックを使ったり、胡弓やバイオリンのように弓を用いる発音方法がありますが、正倉院に「紅牙撥鏤撥(こうげばちるのばち)」が納められているように、雅楽では基本的に撥を用いて演奏します。私は絃の爪弾きはとても魅力的な音楽の光景と思うのですが、音を伝えるという目的と、撥音ならではの力強さをシルクロードを旅した音楽家の心意気や楽器の生命力に重ねて、今回は撥を用いて演奏することにいたしました。
本作は昨秋の高崎芸術劇場での初演に続く再演で、華子さんの演奏にも磨きがかかっておりました。

正倉院復元楽器阮咸(げんかん) 楽器提供:国立劇場 演奏:中村華子

2)「星筐VIIII Singing on Camelback 」五絃琵琶 独奏のための(世界初演)
正倉院に残る螺鈿紫檀五絃琵琶は現存する唯一最古の琵琶と言われる世界の至宝ですが、その造形の美しさに反して、楽器の機能性にはいろいろ制約があることが、実践を通じて判明します。
極端に細い絃蔵に集約される絃の配置により、後のリュートやギター、中国琵琶では簡単に表現できることが、五絃琵琶では特別な演奏技術を要することになります。これを踏まえつつ、絃を弾いた後の余韻を震わせたり、異なるポジションで同じ音高を奏して響きの微小な色彩の滲みを表現するなど、絃楽器ならではの表現に遊びます。
作曲のコンセプトは、副題の如く正倉院蔵の螺鈿紫檀五絃琵琶に描かれたラクダに乗って四絃を奏でる吟遊詩人のイメージ。
先にご説明したように、慣れ親しんだ雅楽器とも異なる古楽器の特性に寄り添う奏法を見出しつつの演奏に、かほるさんには大変ご苦労をいただいて上演に漕ぎ着けました。

正倉院復元楽器五絃琵琶 楽器提供:国立劇場 演奏:中村かほる

3)「星筐 X Winds of Eurasia 」竽・阮咸・五絃琵琶のための (世界初演)
正倉院に納められた楽器たちは、どれほど長い時間と距離を旅して、古代日本に辿り着いたのでしょうか?それらを手にした最初の楽人は、どんな驚きと慈しみをもって、楽を探り、奏でたのでしょうか?私たちは、その喜びを追体験するように、楽器に触れ音を紡ぎ出します。
そしてこの曲では、シルクロードの広大な平原に吹く風や雲を仰ぎつつ、旅人2人のが星空の下で対話する光景を想い描きながら創作しました。

初演直後の楽屋にて 五絃琵琶:中村かほる 竽(竽):東野珠実 阮咸:中村華子
愉快なお稽古風景😄

第35回現代邦楽作曲家連盟作品演奏会
日時:2023年 2月 20日(月)17時45分開場 18時30分開演
会場:紀尾井小ホール
http://www.genpouren.jp/

※現代邦楽作曲家連盟作品演奏会における過去の上演記録アーカイブがYouTube公式チャンネル「 現代邦楽作曲家連盟GenPouRen」にて公開されています。
https://www.youtube.com/@genpouren4996/videos

第23回現代邦楽作曲家連盟作品演奏会(2010)
東野珠実 作曲 ソプラノ・笙・ピアノのための 
「Prism」山村暮鳥詩集「聖三稜玻璃」より
https://www.youtube.com/watch?v=2pnWJ8WDAgk

第29回現代邦楽作曲家連盟作品演奏会(2016) 
東野珠実作曲 箜篌と笙三管のための
「星筐III 」Hoshigatami III for Kugo & 3Sho
https://www.youtube.com/watch?v=vZD4Doe4VeM

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