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なぜスターは国旗のモチーフになるのか

スターの意匠は世界の国旗でお馴染みです。
自由主義陣営のお膝元アメリカのみならず、社会主義陣営の大親分ソ連もスターが入っていたし、イスラム諸国にも入っています。
どういうわけか思想や宗教を超えてスターの意匠は人気があって、敵対する勢力が同じ意匠を使っても気にしない。もしかしたら気になっているのかもしれないけど、自ら取り下げることはしないほどの強いシンボル性があるようです。

近代の「自由と解放」の象徴となっているスターの源泉を「フリーメイソン」思想から探っていきます。


1. 五芒星を採用する国の旗

 冒頭にフリーメイソン思想から、と言いましたが、現在五芒星を意匠として採用している国旗が全部フリーメイソン思想かというとそうではないです。

スターの意匠は古来からあるので、その国独自の伝統的な文脈で採用されている場合も多く、また公式な説明を読むと、当たり前ですがフリーメイソンとの関わりなど言及されていません。

ご存知の通り、アメリカ合衆国の旗の星の数は連邦に加入する州の数を表しており、独立当初は13の星が円を描く意匠でした。当時はスターを描いた国旗はビジュアル的に斬新だったらしく、自由の理想とスターのシンボルは重ねて見られるようになります。

ソ連の国旗は赤地に「鎌とハンマー」が描かれ、その上に五芒星が浮かびます。公式説明によると、五芒星は五大陸の労働者の団結を意味するとされます。

これは国旗ではなく国章ですが、地球の上に鎌とハンマーが描かれ、上には五芒星が浮かぶ。そして麦穂の包みに連邦を構成する国の各国語で「万国のプロレタリア団結せよ」と書かれています。いずれにせよ五芒星が頂点にあります。

中国、ベトナム、北朝鮮、キューバ、旧ユーゴスラヴィアなど、多くの社会主義陣営が五芒星を取り入れているのはご存知の通りですが、ソ連に倣ってなのかは直接的な説明がなく、一応それぞれ独自の説明があります。

 例えばベトナム国旗の五芒星の五角は「労働者、農民、兵士、知識人、青年」を表すと説明されます。

キューバ国旗の白星は「祖国の理想の高潔さと純粋さ」を表していると公式説明されています。

一方でイスラム諸国は「月と星」の意匠が伝統的です。

トルコ共和国の旗はオスマン帝国時代から使われていたもので、700年以上の歴史があるとされています。

この月と星の組み合わせは公式には「イスラムの誕生」に起源があるとされます。預言者ムハンマドがメッカにあるヒラーの洞窟で瞑想していたところ、大天使ガブリエルが神のメッセージを伝えてきた。その晩は新月で金星が輝く夜であったため、「新月と金星」がイスラムの誕生の象徴になったのだ、という説明です。

ただ、どうもこれは後付けの理由っぽいようです。

実は月と星の意匠はイスラム誕生以前からも使われており、三日月はギリシア神話の女神アルテミスのシンボルだし、星は聖母のシンボル「明けの明星」であります。それを組み合わせた意匠をオスマン帝国が採用したため、イスラムのシンボルと見なされるようになっていったのが真実に近いようです。

このように古来からの伝統的文脈で五芒星を採用している国旗もあります。

古来からの原始キリスト教を受け継ぐ国エチオピアの国旗で描かれる五芒星は「ソロモン王の紋章」が起源であると説明されます。

北アフリカの国モロッコの旗に描かれる星は、「スライマーンの星」と呼ばれ同じくソロモン王の紋章が起源です。

以上のように、同じ五芒星とはいえそれぞれ出自は違うし意味合いは異なる。五芒星は「ヒト型」「ヒトデ型」なので視覚的にも安心感があるし、デザイン的にも収まりがよく、特にアフリカや太平洋の国々などで「かっこいいじゃん」くらいあまり深くは考えずに採用されているケースもありそうです。

ただし、「自由・平等」の象徴としての意味に限ってみると、フリーメイソン思想の影響が大きくあると考えられています。

2. フリーメイソンの象徴 "Blazing Star"

フリーメイソンの象徴は上記の"Blazing Star"です。
五芒星の中に「G」が記入され、放射状に後光が差す意匠です。
このGは「God(神)」「Genius(天才)」「Gravitation(重力)」「Geometry(幾何)、「Generarion(生殖)」の頭の文字を表しているとされます。
一般的によく知られたフリーメイソンの意匠は以下の、コンパスと定規をあしらったものです。

真ん中にGがあり、後光が差しているのは同じですが、Gを囲う星がコンパスと定規に変わり、5角形でなく6角形になっています。
フリーメイソンはもともと石工のギルドがその起源であるので、コンパスと定規の意匠は妥当性があるというか、自然な成り行きでそうなった、という感じです。
もう一つ有名な意匠が、三角形の真ん中に目があるもの。これはアメリカ合衆国の1ドル札にも描かれています。

 この三角形は「三位一体」を意味し、真ん中の目は「神の可視的表現としての太陽」を表し、そこから広がる後光は生命の根源であると説明されます。

 この図の元になったと考えられるのが、「三角形とヘブライ文字4文字」の意匠。

Photo by  Ji-Elle

三角形の真ん中に描かれた文字は「YHWH」と読み神を表すものですが、古来よりユダヤ人は神の名前を直接呼ぶことを嫌ったため、神を表さないといけない時にYHWHとだけ記したのがその由来です。
のちにYHWHは「ヤハウェ」「ヤーヴェ」と読まれ、ユダヤの神を表すようになりました。ところが敬虔なユダヤ教徒にとってはYHWHを呼ぶのはタブーであり、これを「アドナイ(私の神)」と呼ぶそうです。

このように、フリーメイソンがユダヤ教の意匠にヒントを得て、キリスト教的な「God」に捉え直し、三角形、五角形、六角形の中に神を表現する文字や絵を描いて「神の威光」を表現し、さらに神だけでなく「幾何」とか「生殖」とか意味を広げていったのが、「ピラミッドと目」や「Blazing Star」であるようです。

一般にはピラミッドやコンパスと定規のほうが知られていますが、フリーメイソンのロッジ(会堂)には、それらと並んで五芒星が飾られています。

3. 自由・解放の象徴としての星

さて、先ほど少しだけ触れましたが、現在のアメリカ合衆国の1ドル札には「ピラミッドと目」のフリーメイソンのシンボルが書き込まれており、その下に「時代を超えての新体制(Novus Ordo Seclorum)」が確立されたことがラテン語で書かれています。
基軸通貨である1ドル札にフリーメイソンのシンボルと言葉が描かれていることは、アメリカ建国の理念と思想にフリーメイソンが大きな影響を与えていることの証明ですし、事実初代大統領ジョージ・ワシントンはフリーメイソンの最高位グランド・マスターでありました。
そういう流れで考えると、アメリカ合衆国の旗に描かれた星はフリーメイソンの星と関係があるか、メイソン的文脈で自由と解放の象徴シンボルとして採用されたとしても不思議はありません。

自由の国・アメリカの建国はヨーロッパの自由主義者にも影響を与え、フランスで革命を誘発するに至ります。フランス革命を推進した革命家の中にも、フリーメイソンのメンバーが多くいたという説もあります。

否定説は根強くありますが、フランス革命中の1789年8月26日に憲法制定国民議会によって採択された「人と市民の権利の宣言(フランス人権宣言)」の図案の上部にもピラミッドと目があしらわれており、やはり何か影響があったものと思われます。

このように、フリーメイソン的思想が持っていた自由や平等や博愛といった思想は、アメリカ独立戦争やフランス革命の中で中心的思想として掲げられ「ピラミッドと目」や「五芒星」が「自由を求める意思」の象徴として広がっていったのではないでしょうか。

「ピラミッドと目」より「五芒星」が使われるのは、単にシンプルで使い易いし、キャッチーであるというだけであって、「自由のシンボルとしてのスター」の元々の出処はフリーメイソンで、分かりやすいからそれ以降の革命や闘争のシンボルとしてスターが使われるようになっていき、多くの国で「自由」を表すものとして認知されるようになっていったのではないかと思います。

まとめ 

フリーメイソンはユダヤ金融資本と結託して世界を支配している、といった陰謀論にたびたび登場します。

陰謀論によると、ユダヤ人がフリーメイソンに思想を移し替える時に、ユダヤの象徴である「ダビデの星」の六角形から一つ角を落として五芒星としたのがその起源であり、ユダヤの支援によってできたフリーメイソンはやがてアメリカを建国し、フランス革命を起こし、世界各地で支配層になり富を牛耳るようになった。五芒星が世界各地の旗に多くあるのは、それだけユダヤ・フリーメイソンに支配されていることの証明だ、というわけです。

これだけ一つの秘密結社のシンボルが普及してしまっているので、そう勘ぐる気持ちもわからなくはありませんが、単に過去に多く使われ人々が認めている意匠を、国の建国の時に権威付けのために採用しただけな気がします。

これまでの伝統文脈の中で権威のある意匠がすでに存在する場合は、他国からわざわざ借り物をする必要がないから使っていないだけ。例えばインドでは「アショーカ王のチャクラ(輪)」があしらわれています。

ユダヤ陰謀論は因果がバラバラでよく分からない世や物事を明確に分かりやすく説ではあるんですが、世の中はそんなにしっかりしてないし、因果が明確にできないものだと思います。


参考文献

「象徴図像研究 動物と象徴」 和光大学総合文化研究所 松枝到編 言叢社
「国旗・国歌の世界地図」 21世紀研究会編 文藝春秋 

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