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ジャンクパーティーで迎える新年

コロナの影響で帰省を自粛したので、今年の年越しはジャンクパーティーを開く予定だった。ちゃんとしたお節料理や季節を感じられるメニューを用意する体力も気力もなかったのだ。それでも普段は夫婦で自炊しているので、ジャンク尽くしを食べるのは久しぶりである。

ただコンビニで体に悪そうなものを好き勝手買ってくるだけなのに、何だか心がときめくのは不思議だ。年越しにはカップうどん。緑のたぬきより赤いきつね派だ。あの甘い油揚げがたまらない魅力を持っている。ジュワッと麺汁が染み込んで、旨味がたっぷり口の中でほころぶ瞬間。なぜか至福なのだ。

夫はチーズが好きだ。だからローソンに入るなり、冷蔵コーナーの前でチーズ商品を物色する。トリュフ入りチーズ生包み。君に決めた。何だか高級そうで美味しそうな響きに手が伸びる。何よりも珍しい。商品開発の人に感謝だ。

ドライソー&スモークチーズは惰性でカゴに放り込む。チーかまを買おうと棚を見ると、3種類くらい別々の会社のものが並んでいる。4本で300円、一番高い。「チーかまと呼べるのは丸善だけ」と猛烈アピールしているパッケージがあった。そこまで言うなら買ってやろうと年越パーティの気前の良さが発揮される。

私が好きなペヤングのソース焼きそばは超大盛りにしよう。じゃがりこも買っちゃおう。サラダ味が基本かな。夫が好きなティラミス! 隣にあった美味しそうなモンブランも。ちょっと買い過ぎかな。野菜がない! きゅうりキムチを申し訳程度に入れておこう。お酒も飲みたいけど、子供のお世話があるからキリンレモンで手を打とう。

買い物カゴが自分と家族の好きで満たされていくと、何だか胸が温かくなった。私が何を買ってくるか、家で待つ夫が楽しみにしているに違いない。店内を見渡せば、お酒コーナーのところで何を飲もうか悩んでいる年配のおじさまがいた。買い物カゴを一杯にしてレジへ向かう、他のおじさまも。女性客は私1人だった。コンビニ店内はいつもよりソワソワと、お客さんが先を急いでいる雰囲気だ。もう、日が暮れる。

家に帰ると、子供番組を見ている息子とiPadでネットサーフィンしている夫がいた。平和な日常の一コマ。

「お母さんが今から来るって」

と夫が言うので、驚く私。義母の訪問があると言うことは、夕飯のおかずが沢山セットの事が多い。実際に程なくして義母は年越しそばセット、お団子、ハンバーグ、2色丼セットと、すぐに食べないと悪くなりそうな食料を沢山持ち寄ってくれた。

頭の中とお腹が完全にジャンクでセットされた私は戸惑う。今日の夕飯を準備したところで義母からの差し入れが届くことは良くあることだ。そういえば、今日明日のどこかで来るような事を言っていた。忘れていた自分も悪い。

結局、私が用意したジャンクメニューは夕飯に食べる事はなく、義母が持ってきた年越し蕎麦とお団子を頬張るだけでお腹一杯になってしまった。それでもチーズだけは食べようと、トリュフ入りチーズ生包みに執着して口に放り込んだ。一番高かったチーかまも意地で頬張る。ついでにキリンレモンも開けてグラスに注ぐ。欲しかったのは、チーズを食べた後に甘酸っぱいレモンの炭酸で喉を潤す感覚。別にお酒でなくても良いのだ。

2020年も終わる。子供が生まれたドタバタで中古マンションを後手後手に買うところから始まった1年。コロナ騒動で乳飲み子を抱えながら働き過労と不眠で持病を拗らせ入院になった。あまりの暑さで夏のある日、車を人様の車にぶつけた。物損は違反切符を切られない。今まで知らなかった世の中のルールが更新された。

「この1年で楽しかった事は何?」

と夫に聞かれて、しばらく考え込んでしまって何も答えられないくらい苦しい1年だったと思う。頭を捻って絞り出したのは、夫と2人で外食した記憶。私の誕生日にお気に入りのミシュラン2つ星フレンチでお祝いした事。すっかり常連客としてお店のマスター夫妻に親しまれた近所のイタリアンで、夫と2人で息子に秘密のクリスマスランチと忘年会を開いた事。2人で食べた美味しい記憶が1年で楽しかった事だった。

美味しいものを食べて、美味しいねと語り合える関係。また来年、変わらず一緒に仲良くしたいと思うのだから、きっと私たち夫婦は大丈夫だろう。これまでにない大規模感染症の影響もあるけれども、時代は常に激流で、将来どうなるかなんて誰にも分からない。荒れる大海に小舟がプカリと浮かび、私と夫、息子と猫、家財道具一式を積み込んでいるような心細さがある。

子供を寝かしつけて、日付が変わり2021年を迎えたすぐ後に、食べ損ねた赤いきつねを夫と2人で食べた。夜が明けて、初日の出を拝んだ後に小腹が減った頃合いで、ペヤングソース焼きそばの超大盛りを夫と食べた。お昼過ぎ、息子が寝ている間にティラミスとモンブランを夫と食べて、少しずつジャンクパーティーのメニューを消化する。

今年は去年より良い年になるかな。なったら良いなと、天に祈る。心細さや不安は背後にいつも張り付いているけれども、今は少し軽く感じる。自分が出来る事を、体と心を壊さない程度にやるしかないのだから。もっと気楽に人生を歩めたら良いと思う。

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