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虫嫌いの男の子が虫を克服?した話

「むし、こわい!」と息子がはっきり言うようになったのは、2歳と半年くらいが経った頃。寒さが和らぎ、桜が咲き、虫がチラホラと出てきて、虫と遭遇するとギャッ!と叫ぶのだ。玄関から出て、外に虫が飛んでいると体が硬直してしまい、「こわい」と動けなくなってしまう。

虫が嫌いになってしまったのには心当たりがある。昨年の夏、群馬の実家に帰った時のことだ。実家の目の前は大きな畑で、肥料にする牛糞で嫌な臭いがして大量のハエが発生していた。楽しい夏休みを終えて、さあ車に乗り込もうと言う時だった。雨が降っていて、車のドアを開けた瞬間に雨から逃れようとするハエが冗談みたいな集団で車に入ってきたのだ。数匹とかの話ではなく、数えられただけでも十四匹。実際は二十は超えていたかもしれない。群馬から東京までの二時間の距離、窓を開けてもハエは車から出ていかず、しつこく車に居座り続けた。助手席に座っていた私が一匹ずつ追い出したけれども、東京に着く頃にも軽く十匹は残っていた。

息子は目の前を飛来するハエに驚き、チャイルドシートに固定されているので逃げることもできず、自分の体を這い回るハエに怯え叫んでいた。身動きできない状態でハエに集られた恐怖体験がトラウマになったのかもしれない。このハエ事件より前は、虫には無関心で、好きでも嫌いでもなかったはずだった。

アリはダメ。てんとう虫は動画で見るのは好きだけど、実際に見たり触ったりするのはダメ。青虫はエリック・カールの絵本の絵なら大丈夫だけど、リアルな青虫は怖い。ハエ、ガガンボには泣き出すほど苦手意識を持っている。バッタ類も怖いようだった。唯一にこやかに触れ合える虫は、蝶々だけだ。

そんな息子が二歳と半年を過ぎた頃に、ある日突然虫を克服した。それも魔法のような方法で。克服したと言うには心許ないけれども、少なくとも息子は苦手なハエを見ても強気に出られるようになったのだ。それも全てばあばのおかげだ。

ばあばと、息子と、夫でマンションから外に出た時のことだった。玄関から外に出ると、マンションの外廊下を照らす電器の下に春の虫がブンブン集まって飛んでいたのだ。息子は沢山の雑多な虫が群がっている様子にビビり散らかして、「こわいよ!」と涙目になってばあばの影に隠れた。

ばあばは、息子に向かって「大丈夫、怖くないよ! 虫なんてビームだ! ほら、虫ビーム!」と言って、息子が好きなアイアンマンの真似をして、虫に向かってビームを放つ動作をした。もちろんビームなんてものは出ていないのだけれども、息子はビームの動作が気に入ったようで、一緒に手を突き出して、「ビーム!」と言い放った。涙目もすっかり晴れて、ニコニコになって何度も「ビーム!」と言って喜んでいる。

それからと言うもの、息子は虫を見てびびると、「虫ビームだ!」と大人が一緒にビームをすると虫に対して強気になって、へっちゃらだい!と言う態度をとるようになった。怖かったらビームすれば大丈夫!となったのである。実際に触ることはできないけれども、虫を目の前にして泣いてしまうことはなくなったのだ。今は虫を見ると自分から積極的にアイアンマンみたいに手を突き出して、「ビーム!」と言って虫を威嚇している。その姿が何とも可愛らしくて、息子の成長が微笑ましかったのである。


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