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なぜか温泉


7 なぜか温泉

2度目の群馬で、パパさんが群馬に帰ってきているときに、
家族旅行に連れて行ってもらいました。
家族旅行に連れて行ってもらいました。
大事なことなので2回申し上げました。

何故、私が?

冬に、北海道に住むパパさんの家に泊まらせていただいたときも思いましたが、
今度はさらに大きなはてなが浮かびました。
家族旅行に、まったくの他人が参加するのです。

読者の皆々様、おかしいとは思いませんか?
私は思いました。
大いに思いました。
ちはるさん、パパさん、コウちゃんだけならまだしも
おじいちゃんおばあちゃんまでいる旅行なのです。
折角の家族水入らずに他人が入り込んで良い理由が見つかりません。
直前まで「本当にいいんですか」と繰り返しました。
しかし、ちはるさんもパパさんも、さも当然のように「いいよー」などと言うので、
巨大なはてなを頭の上にたくさんつくりながら、ふわふわした心持ちでその日を迎えてしまいました。

おじいちゃんが運転してくれる車で、向かうは伊香保温泉。
私は家族で温泉旅行に行ったのは小学生以来です。
私の家族は、父が忙しいことや犬がいること、私が旅行にあまり興味がないことがあり、
家族旅行などというものはてんで行かないのです。
ですから、そもそも温泉とは何をするどんな施設なのかもう覚えていませんでした。
しかも途中、「どこか興味あるところある?」と聞かれた際に
「うーんここが気になりますね」とぼんやり私が言った、
伊香保おもちゃと人形自動車博物館に寄ってくださいました。

何故、私の意見が?

もう、頭上のはてなは膨れ上がってはちきれそうでした。
しかし博物館の中に入ると超巨大なテディベアが迎えてくれ、
写真を撮ろうなどと言われた私は浮かれて写真を撮っていただいてしまいました。
更に歩みを進めると、世界各国の様々なテディベアに、古いお人形やブリキ、
レトロな看板やポスターで装飾された建物風の展示が所狭しと並んでいました。
古いものが大好きな私は、すぐにその世界に入り込みました。
90年代の展示には、私が知っているアニメやゲームも沢山ありました。
昔のヒーローもののおもちゃや文房具、日用品雑貨も、めまぐるしいほどに敷き詰められています。
完全にテンションが上がった私は、入ってから出るまでに100枚以上の写真を撮っていて、携帯電話の充電が切れそうになりました。
こんなことは初めてだったと思います。

コウちゃんも、体験できる縁日の展示でたくさん遊んでいました。
くるくる巻かれた紙がのびるおもちゃをゲットしていました。
それがいたく気に入ったらしく、旅行中も帰ってからもずっとそれで遊んでいました。
自動車も沢山あったので、車好きのコウちゃんは目を輝かせていました。
土産物屋で、大きなミニカー――とても矛盾していますが、ミニカーと呼ぶには大きく、置物と呼ぶにはおもちゃに近かったのです――をおじいちゃんに買ってもらったコウちゃんは、とっても喜んでいました。
はやく走らせたくて仕方がない様子でした。

隅々までたっぷりと見て回り、楽しんだのち、うどん屋さんに入って腹ごしらえしました。
すごくおいしいうどんで、山葵も全く辛くなく、甘いほどでした。

そしていざ温泉へ。
着いてみるととても立派な旅館でした。
私は温泉などというものがあまりに久々だったので、その時は建物のことなどあまり見ることが出来ていたなかったのですが、
後日、テレビでその温泉が映っていて驚愕したほど立派な旅館でした。
お部屋はまたも、ちはるさん、パパさん、こうちゃんと一緒でした。
しきつめられた布団に、またも「何故」が頭の中を占領しました。
「どうする!? どこから行く!?」とうきうきしたちはるさんに聞かれても、私は温泉の楽しみ方をほとんど知りません。
ちはるさんについていく形で温泉に入りました。
普段、お風呂はシャワーで済ませているため、湯船にゆっくりつかるということ自体に慣れていないこともあり、
頭の中は最早軽いパニックです。
正直、呆然としていました。

――温泉。
知らない人同士でお風呂に入る場所。

はてなばかりの私はもうその行為が自体が不思議に思えてきて、
「何故人はこのような施設を作ったのだろう」「なぜこれは好ましいことなのだろう」などとぐるぐる考えながら、
とりあえずすべての湯船に入ろうと、入っては出て入っては出てと繰り返していました。
そんな中でも、ひとつ、お気に入りのお風呂を見つけることが出来ました。
露天風呂で、洞窟のような構造。壁に大きな穴が開けられたそこは、すこしぬるめのお湯が気持ちよく、また、すこし薄暗いのも神秘的でした。
ここは良い、と思った私は、ひとりぼけぼけとそこでうずくまっていました。
穴から見える室内温泉を行きかう人々、時折見える笑いあう女性たち。
そして覆いかぶさる緑が、なんだか心をゆるく解いていってくれるようでした。
ちはるさんにそれを言うと、「なおちゃんらしい」と笑ってくれました。

お部屋に戻ると、コウちゃんは買ってもらった車を走らせて大盛り上がり。
ふすまや椅子の下に隠れてかくれんぼも、何度もしました。
そして、コウちゃんにとって宝箱のようであろう、ゲームセンター。
小銭を小袋にまとめて入れては遊びに行っていましたが、コウちゃんは小袋が気に入らない様子でした。
手で持っていきたいと言うのですが、流石に落としてしまいそうで、説得には苦労しました。
そこで私は思いつきました。
みんなと同じお財布があったらどうだろうと。
土産物屋でそれらしいのがあるかなぁと探したところ、丁度良い物がありました。
群馬県のマスコットキャラクター、ぐんまちゃんの小銭入れです。
ファスナーがついたお財布らしい形をしていて、お値段もお手頃でした。
想像通りの物が見つかって私も浮足立ちながらゲームセンターに戻り、
太鼓の達人で遊ぶちはるさん、パパさん、コウちゃんのもとに、そろりそろりと近づきました。
「じゃーん! 見て! コウちゃんの、おさいふ!」
最初はぽかんとしていたコウちゃんでしたが、お財布にお金を入れることを教え、
「これ、おねえちゃんのお財布!」と私のお財布を見せました。
続けてちはるさんが「これママのお財布ー!」、パパさんが「これパパのお財布」と見せていくと
納得したように目を輝かせていました。
気に入ってくれたようで、自分のお財布からお金を出したがるコウちゃんはとても一生懸命で、嬉しくなりました。
自分のお金で買うということを覚えたコウちゃんは、帰ってからも、アイスを自分で買うと言ってお財布からお金を出してくれるようになりました。
これは私の中でとても良い思い出になりました。
コウちゃんが新しいことを学ぶきっかけを、私が作れたような気がしたのです。
私はお金が好きなのです。
それを稼ぐことも、使うことも、とても尊いと思います。
コウちゃんにお金の尊さの一片を教えることが出来た気がして、とても嬉しい気持ちになりました。

夕食も大変豪華でした。
おばあちゃんにお酒を注いで頂いてしまい、私の驚きとはてなは尽きてしまったかと思うほどでした。
その様を写真に収めるちはるさんは、けたけたと明るく笑っていらっしゃいました。
食後はみんなで相撲のようなことをしていました。
私はお酒をいただきながら観戦して、それはよく笑いました。

今でも、何故こんなことになったのかわかりません。
温泉とは何かもよくわかりません。
あまりに不思議な出来事で、行ってからも帰ってきてからも、
そして今でも、うまく受け止め切れていないと思います。
ただ、とても幸せな、良い思い出になりました。

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