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【短編小説】思い出裁判

近い未来の話である。現代では考えられないだろうが、死後の世界の研究が進みこの世を旅立ってからの大体の流れが理解されている。昔話であったように、閻魔様というものは実在しているらしく閻魔様の裁量によって死人の行く末が決定する。ただやはり昔からの話とは異なってくる箇所もある。死人は天国と地獄の2パターンではなく、10段階のランクに分けられランクに応じた生活を送ることになる。ランク10つまり最上位にあたるランクはそれはもうたいそう素晴らしい生活だそうで、人間が妄想や想像していることなどなんでもできるようなところである。逆にランク1つまり最下位に位置するランクはここでは言えないくらい酷いらしい。それ故に、当たり前のことだが、生前に人はなんとか上のランクへ行こうと努力するのである。では何を基準にランク分けが行われるのか、それは昔話で言われていた「生前の行い」と似ているのだが、決定的に異なる「思い出」によってはかられる。「生前の行い」は自分が覚えていようがなかろうが事実としてあるものだが、「思い出」は自分が覚えていることだけである。このことが判明した時より人類の「思い出産業」は急速に発達した。「思い出産業」は人から記憶を抜き取ることを目的とした産業である。「思い出」は覚えていることだけつまり、悪いことは忘れてしまえば‘綺麗な‘「思い出」だけ残り、上のランクへ行けるという寸法だ。ただ記憶を消すということはなんとなくわかると思うがかなりのエネルギーを要するので、非常にお値段が張る。だから大体の人は死ぬ直前に一括で’悪い‘記憶を消す。こうすることで日常生活は何の気兼ねもなく自由に暮らせる。よって犯罪率も死亡率も現代と大して変わらない。一方でもちろんお金を払えず最後まで記憶を消せない人もいる。そんな人は祈るばかりであるそうだ。話が戻るが人類はこれで完璧に不安が無くなったというわけでは無かった。死者のランク分布つまり誰がどのランクに行ったかはわからないのである。だから本当に記憶を消した人が上のランクへ行ったのかは不明なのである。しかし人類にはどうしようもないので「思い出」が基準だと分かっているだけでも御の字と思うしかなかった。


~死後裁判所~
部下「いや~閻魔様人類に基準が思い出だと教えてから、ずいぶん我々の仕事が楽になりましたね~」

閻魔「がはは、人間どもが勝手に記憶を管理しておるから我々が全部の記憶をみる必要がなくなったからのう~、いやはや時短時短」

死者達「話が違うじゃないか!!!!どうなってるんだ!!!記憶なんか消すんじゃなかった!!!!」

閻魔「ええい、黙れ黙れ!静かにしないか!」

部下「そうだぞ、“覚えている”思い出を基準にすると勝手に判断したのは貴様らだろう!我々は言った通り“消した”思い出をみて判断しているだけじゃ、ふふ」

閻魔「弱きものが救われ、我々は楽、いや~素晴らしい」

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