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溢れる 第二章のいち 《短編小説》

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第二章

part6

アフレル国はノースブルー大陸の海沿いに面した半月型の国だ。海沿いでは漁業が盛んで、漁業ができない季節にはその鍛え上げられた肉体を生かして戦士業に勤しんでいる人達が大半だ。

戦士業で多くの功績を残したのがパトリック家であり、現在のアフレル国の王族は皆パトリック家の血筋だ。

パトリック家の長、パトリック王は、15の年で既に何カ国をも救ってきた英雄で、王になるまでに数え切れない程の国を救ってきた。

そう戦士業とは、国を滅ぼすのではなく、滅ぼそうとされている国を守る仕事なのだ。

パトリック王は40歳になった今でも多くの人を救い、多くの人に愛されている。

そんなパトリック王が数ヶ月ぶりにアフレル国に帰国した。

パトリック王が一番に向かった先は溺愛する息子の部屋だ。

「ライアン、帰ったぞ」

そう、ライアンはパトリック王の息子なのだ。

「おう、おかえり。今回は幾つの国を救ったんだ?」

「相変わらず生意気な口の利き方だな、お前は。まあいい。今回は一国だけだ。近頃は争いごとも昔より減ってきていていい世の中になってきた」

ライアンは質問しておきながら、興味なさげに雑誌を読んでいる。

「それはさておき、ライアン、お前また戦士クラスで一番になったそうだな。凄いじゃないか」

「ああ、まあな。けど凄くなんてないさ。父さんの遺伝子を受け継いでいるんだから当然だろ」

ライアンの唐突な賛辞にパトリック王は威厳のない、ふにゃけた笑顔になった。

「この調子でいけば父さんはいつでも引退できる。引退したら極東にあるオンセンなるものにゆっくり浸って余生を謳歌できるな。ライアンこれからも期待してるぞ。じゃあまた晩餐でな」

「…お、おう」

パトリック王の護衛がライアンの自室の扉を閉じた。

ライアンはその扉を見つめながら、また父に本当の想いを打ち明けられないことを嘆いた。

Part7

ライアンとエリイとサナはライアンの強い要望でサンゼリアに来た。ライアン曰く、サンゼリアの料理は王室の気取った料理なんかより何倍も美味しいそうだ。

確かに運ばれてくる料理はどれも見た目は悪いが、味は間違いなかった。

ただライアンは配慮が足りてなさすぎた。サナの目の前に魚の丸焼きや、海老のサラダが運ばれてきてしまったのだ。

「人間はやはり魚や海老を食べるんだな。生きるために仕方がないことなのは頭では理解しているけど、ごめん、私はまだ魚を食べる気持ちにはなれない」

「…」

いつもは饒舌なライアンもこの時ばかりは返す言葉が見つからないようだ。

と思ったら、唐突にライアンは立ち上がりサナの目の前まで進んだ。

「ライアン、お前とはもうキスしないぞ」

「わかってる、そうじゃなくて、ごめん、配慮が足りなさすぎた、本当にごめんなさい」

ライアンは涙目になりながら、サナの目を見つめて精一杯謝った。

サナは大笑いして、ライアンの肩を撫でた。

それから気を取り直して三人で楽しく食事をした。

それから、三人揃った日には、サンゼリアに行くのがお決まりコースになった。ここでも砂浜で話をしていたように、沢山の話をした。

それぞれの夢の話になった。

エリイとサナが夢について熱く語っている様子をライアンは黙って聞いていたので、エリイが尋ねた。

「ライアンさんの夢は何なのですか?」

ライアンは残りのジンジャーエールを飲み干した。

「俺の夢は、踊りで人を救うことなんだ」

ライアンが12歳の頃、家族旅行で訪れた国で、ライアンは初めて踊り子に出逢った。その踊り子はたった一人で何百人もの人達の歓声を引き出していた。その姿にライアンも一目惚れした。

「だけど、父さんも、国も、俺が立派な戦士になることを夢みてるんだ」

「だから俺の夢は夢の中でだけ叶う夢なんだ」


唐突にサナは立ち上がりライアンの目の前まで進んだ。


「ライアンの夢はライアンの夢だ」


そう言ってライアンの手を取った。

「さあ、踊ってみせてよ」

「急に踊れるかよ、恥ずかしい」

「じゃあ私が踊る」

そういってサナは踊りだしたが、その動きは電池の切れかけたロボットのような動きだった。

だが楽しそうだ。その楽しさに惹きつけられていつのまにかエリイも踊っている。

「ライアンさん、踊るのってこんなに楽しいのですね。ライアンさんの夢、とっても素敵じゃないですか」

褒められて調子づいたライアンは遂に踊り出した。

「見せたいものってなんだ、ライアン。こう見えて父さんはそんなに暇人ではないんだぞ」

パトリック王は、王に相応しい玉座に鎮座し、ライアンを見下ろしている。

「それになんだ背後の二人は」

「ま、まさか二人と共に結婚したいと言うのか。気持ちはわかるが一人を愛せぬ男など、戦士と言えぬぞ、ライアン」

「違うって、父さん。今日は俺がずっと父さんに言えなかったことを聞くのじゃなくて、見てほしいんだ」

ライアンが二人に合図を送る。どこからか綺麗なメロディーが流れてきた。

ライアンが右足を前に踏み出す。

ライアンダンスの幕開けだ。

続く

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