【ピリカ文庫】てぶくろ【ショートショート】
今年は何かが違う気はしていた。
毎年、末吉しか引かない私が大吉を引いた。
毎々、旅行中ずっと雨だったのが快晴だった。
幸運に満ちている。
これは好機だと思って、小学4年から片想いだった1個上の先輩、舜くんに3年分の想いを込めて告白した。銀杏が衣替を始める10月に。
結果は、なんと、舜くんもずっと好きだったって言ってくれて。付き合うことになった。もうなんなのかしら。
これ以上の幸せが訪れると身が持たないと思いながらも、幸せなことはまだまだ続いてくれた。
11月25日の誕生日に、舜くんがプレゼントをくれた。真っ赤なミトンの手袋。ミトンってのは鍋掴みみたいに指をまとめて収めるタイプの丸っこい手袋。私の好きな白猫の刺繍がされていた。
嬉しくって周りの銀杏が金色に輝いて見えた。
手袋を渡してくれた時の舜くんの言葉が特に嬉しかった。
「これ着けて登校したらちょっとは寒くないかと思って」
だってさ。
私が中学に入って以来、20分も自転車で通学して、手が凍ってることを心配してくれてたんだ。
その優しさが好き。
それから毎日、舜くんがくれた真っ赤な手袋をして通学した。
晴れの日も、雨の日も。
雨の日は毛糸に水が染み込んできて、手袋してても手が冷たくなった。でも平気。心はポカポカだから。
こんな幸せだからさ、今年のクリスマスはもうサンタさんにプレゼントお願いしないでおこうと思う。中学1年にもなってまだサンタを信じてるって可笑しいって人もいるんだろうけど、私は昔実際にサンタさんを目撃したんだから。
そうだ。今年はプレゼントお願いしない代わりに、サンタさんに今の現状報告しよう。
聞いて聞いて、私今こんなに幸せなんだよって。そして手袋付けた手同士でハイタッチしよう。
そしたら魔法が飛び散って世界中の子供たちに幸せが届きそう。
そんなこと考えながら帰宅してたら、小学校の前で1人の女の子が泣いていた。背丈からして高学年の子かな。心配になって声をかけた。
どうやら手袋を片方無くしてしまったらしい。お母さんに買ってもらったばっかりの。
昨日無くして、家も学校もランドセルの底も全部探したけど見つからなかったらしい。
私は決心した。
その女の子に私の手袋を片方渡すことを。
女の子は遠慮したけど、
「いいの。あなたの手が温かくなったら、それでお姉ちゃんも温かくなるから」
そう言って女の子に手袋をあげた。
たまたまその子が持っていたのも赤いミトンの手袋。
私のと同じように兎さんの刺繍がされていて、私のとあわさって兎と猫が仲良くしているみたい。その光景を見て、体中あったかくなった。
人に優しくされるのも幸せ、そして人に優しくするのも幸せなんだ。
後日、私は正直にこの話を舜くんにした。大切な手袋をあげちゃったことも謝った。
怒られると覚悟してたけど、舜くんは今まで見たこともない満面の笑顔になってた。
「三好のそういうところが好きなんだ」
そして私の片手をぎゅっとして、こう続けた。
「手袋してない方の手は俺が温め続けるよ」
あーもーサンタさん、早くハイタッチしたい。
終わり
◇
この物語はピリカさんにお声かけいただき創ったお話です。ピリカさん、素敵な機会を与えてくださりありがとうございます。
ピリカ文庫、名作揃いです!
ピリカさんの文章。手袋を着けたように温かいです!
同じお題で、かっちーさんも書かれております!流れるような展開が圧巻です!!
sideBも発表されました。2作品で一つの作品になっているのが凄いです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。