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戦争はいまも続いている

洗面所で歯磨きをしていたら、夫にすごい剣幕で呼ばれた。
「え? なにー? いま手が離せないんだけど。口で説明してくれない?」

「口で説明してくれない?」は、わたしがしょっちゅう子どもらに言うフレーズだ。娘も息子も「かあかー! 見てこれー!」と、すぐにわたしを呼ぶ。それは当たり前のことだし、「どんなときも、必ず手を止めて子どもの『見て』に応えましょう」というのは、育児のセオリーでもある。けれど、まぁ現実はそうもいかず、「手が離せないから、口で説明してー!」と言ってしまうのだ。

しかし今朝の夫は、そんな返事では通用しなかった。
「そういう問題じゃないから、北朝鮮ミサイルが、大変なことになってる!」

「北朝鮮ミサイルか〜、なんか最近しょっちゅうニュースになってるよね」と頭のなかでのんびり考えながらうがいをし、リビングのテレビを見たらほんとうに大変なことになっていた。

いつも観ているNHKニュースは別画面に切り替わり、ずっと「国民保護に関する情報」「頑丈な建物に避難を」という物々しいメッセージを伝えている。

北朝鮮がミサイル、と聞いたところで、恐ろしいとは思いながらも、どこかよその話のように考えている自分がいたことに、ここへきてようやく気がついた。重要タスクにも関わらず、パソコンのモニターに貼りっぱなしにした付箋が景色となってしまうように、重大ニュースも回数が増えれば、日常にするんと溶けてしまう。同時に、ウクライナの戦争のニュースに、「辛いね、怖いね」と言いながらもだんだんと慣れてしまっている自分を思う。

夫がぽつりと「戦争って、ある日突然こんなふうに始まるんだろうな」と言った。

ざわざわと揺れていた気持ちの理由に気づき、歯磨きをしたばかりのはずの口の中がカラカラに乾いていた。

(2022年10月4日)

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