涙の色はまだら

ハンカチが涙色に染まった。

先日から詠み進めていた『本日は、お日柄もよく』(原田マハ著)が読み終わった。正確なページ数はわからないけれども、3分の1くらいを一気に読んだのではないだろうか。帰宅ラッシュよりも少しだけ早い時間帯に乗り込んだ山手線で。

物語の進め方に関しては「強引だなぁ」とか「展開が早いなぁ」と思った部分があるのはたしかだ。それでも、いや、それ以上にぼくは、ところどころに散りばめられている「ことば」のちから(パワー)に打ちのめされた。恋とは違う。愛、もっと違う。感嘆、ということばが一番近い。

言葉を読み、頭に入り込んだ瞬間、ぱっと弾ける。ケンタッキーフライドチキンを食べるときに食卓へ添えられた、コーラの気泡のように。ピリリ、とくる。これが気の抜けたことばばかりの物語なら、それこそ炭酸の抜けたコーラのように何も弾けなかったはずだ。

ぼくはメガネを掛けているから涙は目立たない、それに加えブルーライトカットでもあるから多少ではあるが、レンズに色がついている。他の人からは見えないだろう。時折、ハンカチをポケットから取り出していた仕草が見つかっていなければ。

小説っていいな。書きたいな、とまでは思わなくても人生を豊かにするための「ひとつ」だ。ある野球選手の言葉を借りると「ぼくから野球を抜いて何も残らなかったらダサい」そんなことを最近考えている。

もちろんすべてを──選手ではないにしろ──野球に捧げるのもひとつの生き方だ。でもぼくはそうじゃない。ぼくを取り巻く日常があって、そのなかに野球があるのだ。

もっと早く気づきたかった、と思うけど、過去を悔いても仕方ない。人生を豊かにすべく、野球以外をもっともっと取り入れていく。よかった、そうやって涙を流せるような自分になりたい。色は野球じゃない。もっとまだらだ。

こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。