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プロ野球、好きっすか?

ひとくちに野球好き、と言っても様々なパターンがある。

あまり興味がない人からすると同じように聞こえるかもしれないが、大きく違うのである。ガンダムとエヴァを一緒にすると「チッ」と舌打ちされるように、野球ファンも「あいつと一緒にするな」と心のなかで思っている人は多い(ような気がする)。

自身でプレーをするのが好き、観戦するのが好きと、大きい枠組みでいうとこの2つに別れる。例えるなら、列車に乗るのが好きなのと、撮るのが好きなのとに分かれるようなものだろう。

ある意味、派閥である。観戦する派のなかには、NPBが好き、MLBが好き、独立リーグが好き、高校野球が好き……とさらに細分化される。もちろん横断しているファンもいるのだけれども。

NPBの場合はそこから12球団のファンに再び細分化され、その先に選手ごとの派閥があって…とまるで、ところてんのようになっている。その他にも応援するのが好き、選手のプレーが好き、球場グルメが好き、世界観が好き、データが好き、議論が好き、野球本を読むのが好き、人間ドラマが好き…と数え上げたらきりがない。

興味ない人からしたら、「野球好き」としてひと括りにされてしまうかもしれないが、その実態はこのようになっている。いろいろあるのだ。

この背景があるから、每日のように戦争が繰り広げられているのである、といっても過言ではない。同じ好きでも中身が大きく違うのである。

一昔、いや二昔前は、SNSはもちろんインターネットも今ほどは普及しておらず、リアルでの攻防しかなかった。その攻防を避けるために「政治、宗教、野球の話はご法度」と言われていたほどである。今はもしかしたら死語なのかもしれない。

実際、ぼくも父親からこれを教わっていた。今、思えば、政治も宗教も野球も全部一緒。野球はある意味、政治だし、宗教のようでもある。

それがTwitterをはじめとするSNSの普及で、だれしもが簡単に意見や考えを発信できるようになった。政治、宗教、野球の話がさんざん響き渡っている。いいことよりも悪いことのほうがもちろん多い。たくさんの人が、あたりかまわず見えない銃を撃ちまくっている。

なんで同じ野球好き(のはず)なのに戦争が起こるのだろうか。みんな野球が好きなんじゃなかったのかよ。好きだからこそ、相手をめった刺しにするのだろうか。なんだか少し前に歌舞伎町のホストが刺されたことを思い出した。そういう人もたしかにいる。

なにかあると誹謗中傷、煽り合い、リスペクトのかけらもない。いや、リスペクトはできなかったとしても、せめて無関心を装えよ、と思うことは日常茶飯事である。

それこそTwitterのタイムラインを見ていれば、数秒に1度はなんらかの煽り合いが生まれている。

ぼく自身もイラッとくることはたくさんある。しかし、である。そこで争いを起こしても、煽ってもしょうがないのである。ぼくは煽り合いなんてしたくないんだ。弱い者たちがさらに弱い者を叩く世界、がそこにはある。それでも、こんなこともあるのか、とぼくは、ぼおっと眺めている。

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そんなときに当事者たちに贈りたいのが、「プロ野球、好きっすか? 」というフレーズだ。

今までどれだけの雑誌や書籍、ネット記事を読んできたのかは憶えていないけれども、そのなかで一番好きなのがこのフレーズなのだ。これだけ単刀直入に、ずばっとメッセージをもってこられたのは初めてだった。ちなみにこれはNumber 889号(2015年11月6日発売)の表紙から拝借している。メインビジュアルは「ギータ」こと柳田悠岐(ソフトバンク)である。

ギータにこう問いかけられたらなんと答える? そりゃ「好きっす」だろう。間髪入れずに「好きなのになんで煽るん? 」って言われたら、ほとんどの人が「いや…あの、それは…」とことばに窮するんじゃないだろうか。

いい奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない。そんな世界が広がっているはずのに。でも、自分の好きなものを守るために、ちょっとちがう好きなものを好きな者たちを煽る夕暮れがそこにはある。

オフシーズンになると、球団主催で少年野球教室が全国各地で行われている。試合中とは違う選手達の優しそうな表情、こどもたちの真剣な眼差しが眩しい。それはまさに「野球が好き」な者たちの交差点だ。

三つ子の魂百までと言うけれども、どれだけの子どもたちがこの思いを胸におとなになっていくのだろう。そんなことをふと思ってしまう。

野球ファンの原点である「好き」ということ。子どものときに一度は胸にいだいたであろうこの気持ちを忘れちゃいけない、どこまでも。

ガンダムやエヴァじゃなくて、なにかに惹かれて野球を好きになり、選んだぼくたちだ。野球のなにを好きでもいいけれども、戦争ばかりしているのは少し寂しい。

自分を見失いそうになったら、もし迷ったら原点に立ち返り、精一杯でかい声で問いかけてほしい。

「プロ野球、好きっすか? 」

本当の声を聞かせておくれよ。

こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。