殺さないこと
死の定義──。一般的には心臓が止まり、呼吸ができなくなったとき、だろう。脳死の解釈をどうするのか、という議論はあるものの、概ね間違っていないはずだ。死の定義を語りたいわけではないので、細かい部分は置いておく。
だが、人が死んだ後に「心には残っている」「文学が残っている」「教えが残っている」などといった表現がしばしば用いられ、肉体は死んでいるにも関わらず「生きている」と表現されることは少なくない。
肉体的には死んでいたとしても、その人の心のなかで生きている、というのはよくある話だ。
その一方で実際には生きている人を殺してしまうことも起こりうる。誹謗中傷などで追い詰める、という意味ではない。
生きていることが心に残っていることならば、逆に言うと心のなかでその存在を抹消してしまえば、その存在はいとも簡単に死んでしまうのである。単純に忘れるのとは意味が違う。
そう考えたときに少し恐ろしくなった。ぼく自身、これまでに殺されたことは幾度となくあるだろう。今もまさに殺されかけているはずだ。
でも、ぼくは人を殺したくはない。関わった人すべてが、いいやつだったかと言うとそんなことはない。ムカつくやつもいたし、にくいやつもいた。それでもやっぱり存在を消したりはしたくない。
殺さないように、殺されないように生きていくこと。簡単なようでむつかしい。
こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。