変わるもの、変わらないものを見て感じる安心感
ぼくは2016年シーズンから神宮球場で開催されているレギュラーシーズンのヤクルト戦を全試合、現地で観戦している。コロナ禍の今シーズンも継続しており、現在進行系だ。これだけ通っていると、──ぼくのような凡人でも──いろいろな変化に気がつく。
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神宮球場一塁側の座席から茜色の空を見上げると、少し大きい飛行機が目に入った。そういえば、3月から羽田空港の新飛行経路が運用開始となるニュースを見たことを思い出した。調べてみると、上空750メートルから900メートルほどでかなりの低空飛行らしい。
去年とはちがうね。そう思ったと同時に2016年に通い始めた頃から比べると、神宮球場を取り巻く環境がちょっとずつ変化していることに気がついた。
ヤクルトの応援サイドである一塁側、もしくはライト側から三塁側を見ると、日本青年館ホテルが鎮座している。無観客試合のときは、上空からの観戦スポットとしても話題になったあそこだ。そのまま目線を右にずらし、レフト側を見ると、新国立競技場が目に入る。
両施設とも数年前は建設中だった。少しずつ完成が近づき、新国立競技場の照明テスト(らしきもの)が確認できたときは、「いよいよか」と思ったものだ。それが、今となってはあたりまえの景色になっている。
日本青年館ホテルの建設中には「景観が悪くなるなぁ」と思っていたけれども、今となっては強烈な日差しを遮る壁になってくれる、ありがたい存在となった。
一方で新国立競技場の少し先に見えるドコモタワーは変わらない。色とりどりにライトアップされる姿はいつだって美しく、安心感がある。代々木駅付近で見上げてみてもただの無機質なビルなのに、なんで遠くから見ると綺麗なんだろう。富士山のようなものなのだろうか。
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野球場に欠かせない要素となった球場グルメも大きく変わった。神宮球場のオリジナル商品として「じんカラ」(からあげ)や「じんカツ」(カツサンド)、ドリンクでは「じんレモ」(レモンサワー)が販売されるようになり、選手プロデュースメニューも格段に増えた。
それも毎年のようにリニューアルが行われている。球場内にある宣伝のポスターも選手によって個性が出ており、見比べるのも楽しみのひとつ。主砲でありチームの顔になりつつある村上宗隆は20歳だからなのか、どこか垢抜けなくて可愛かったりもする。
一方で変わらない味もある。内野エリア正面の7番入口入ってほぼ正面に位置する欅のカレーである。50年以上にも渡って愛されているカレーは、時代の流行り廃りに惑わされることがない。街では韓国料理などの辛いものが流行っていても、お子様が安心して食べられるような辛さで販売を続けている、と以前、店長も語っていた。
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そういえば登場曲も毎年のように変わっている。ムードメーカーの上田剛史は今年、「7回以降、5点差以上で勝っている」という条件付きではあるが、高津臣吾監督がかつて熱唱していたことでも知られる、『大都会』(クリスタルキング)に設定している。こういったお遊びができるのもヤクルトのいいところなんだろう。(程々にしてほしいと思う部分もあるが…)
塩見泰隆は昨シーズン好評だった『GⅠファンファーレ』から『ギンギラギンにさりげなく』(近藤真彦)に変わった。盛り上がることには変わらないが、競馬場さながらの雰囲気が失われたのは少し寂しい。
一方で変わらない曲もある。川端慎吾の『悲しみなんて笑い飛ばせ』(FUNKY MONKEY BABYS)である。今シーズンの川端は代打での出場がメインとなっていることもあり、ここぞの場面で流れることが多い。
そのイントロが流れると球場のボルテージは否が応でも上がる。今はまだ、大声を出しての応援はできないけれども、手拍子や応援バットの音はひときわ大きくなる。みんなが復活を待っている。そんな思いが乗っかっているかのようだ。そしてここにも、「この人はこの曲だよね」といういひとつの安心感がある。
グラウンドの中で戦う選手たちも大きく変わった。4年前にはいなかった若きスター候補の村上や帰ってきた青木宣親が駆け巡り、バレンティン(現ソフトバンク)や畠山和洋(現二軍打撃コーチ)らの姿は見えない。それでも一、二塁間に目をやると山田哲人がいる。今シーズンは少し不調だけれども、山田のいる安心感は別格だ。「腐っても鯛」ならぬ「腐っても山田」である。
毎日のように通っていると気がつくにくいけれども、これだけ神宮球場を取り巻く景色は変わっているわけだ。軸をブラさずに安心感を損なうことなく、変わっていくこと、変わらずにいることをうまく織り交ぜながら。
一方でぼくはどうだろうか。神宮球場と同じように年齢は重ねてきた。自分自身の軸をぶらさず、安心感を与えることができているのだろうか。人生は長いようで短い。きっと、ただただ時を過ごすだけではなく、変わるべきところは変わらなくてはいけないのだろう。
キリンのビールを飲み、青木のダッシュを見届けて、先発投手のブルペンを拝みながら、試合開始前の1時間ほどでそんなことを考えていた。でも、どうあろうとも、神宮球場に通うということは、変わらずにいることなんだろうな、きっと。それが自分自身への安心感になる。
こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。