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シリーズ「村田朋泰の世界」File.01 アニメーションから生まれたインスタレーション

昨秋、多摩美術大学八王子キャンパスのアートテーク棟の前を通ったときに、ガラス越しに見える赤と白のコントラストに目を留めた学生は多かったのではないだろうか。そこで開催されていたのは、本学芸術学科の展覧会設計ゼミ(担当:家村珠代教授)が企画し、毎年1回学生と作家が協働で作り上げていく『家村ゼミ展』だった。2021年は人形アニメーション作家の村田朋泰氏を迎え、10月4日から19日まで『家村ゼミ展2021「今年は、村田朋泰。―ほし 星 ホシ―」』というタイトルで開催した。美術館でも街なかのギャラリーでもない大学という場所で、授業の一環という特殊な状況下で村田氏は何を考え、作り上げていったのか。

 アートテーク棟のガラスに貼られた「今年は、村田朋泰。―ほし 星 ホシ―」という言葉を見ても、何を作る作家の展示なのかは分からなかっただろう。外から見える二つの部屋の片方では、白い〝何か〟が空調や人の動きで揺れていた。まさかそれがティッシュで作られた壁だとは、誰も思わなかったに違いない。そのはざまから、フサフサとしたフェイクファーの山が見え隠れしていた。  

 ガラス張りの壁に赤いストレッチフィルムを層になるよう重ねて貼った向かいの部屋の中を覗くと特撮のようなセットがいくつも置かれていて、その間を縫うように張り巡らされたコースの上をラジコンカーが走っていた。部屋の中には入ることができず、一体どのような展示だろうかと来場者は心が揺さぶられたに違いない。部屋の赤いガラスの前で、展覧会を鑑賞に来た学生がモニター画面を見ながらコントローラーを操作していた。中を走っている車が映し出す光景を見ながら操縦していたのだ。そんな中でひとりの男性がギャラリーの中に入ってきた。人形アニメーション作家の村田朋泰氏である。
 「人形アニメーション」は、その名の通り人形を少しずつ動かして撮影した画像をパラパラ漫画のようにつなぐことによって制作する方法で、「ストップモーションアニメーション」のひとつである。村田氏は1秒間に15 枚の写真を使う。滑らかな映像にするためにはミリ単位で被写体を動かす必要があり、少しのずれがあっても映像にしたときに違和感が生じてしまうため、集中力と緻密さが求められる。まさに職人技だ。

『家村ゼミ展2021』にて展示を行った人形アニメーション作家の村田朋泰氏。学生によるインタビューに真剣な眼差しでお答えいただいた

 村田氏が人形アニメーションに目覚めたのは大学3年の時、チェコのアニメーションを見たことがきっかけだった。物語の創作、ミニチュアの模型作り、演出など多岐にわたる作業と技術を要するこの手法は総合芸術だと考え、多くのことを身につけなければいけないがゆえ、長く修業できるところに魅かれて取り組み始めた。
 ただし、赤いフィルムの部屋の試みに見るがごとく、この展覧会で展示された多くは、人形アニメーションとは異なるインスタレーションだった。この連載では、意義深いそれらの出品作を1点ずつ解説していく。 (続く)

作品01《スタイロフォーム/走馬灯》

『家村ゼミ展 2021』会場より「過去」の部屋として設えられたアートテーク・ギャラリー 101《スタイロフォーム/走馬灯》室内。鑑賞者はこの部屋に入れず、カメラ付きラジコンカーを走らせて、 下記の写真のようにモニター画面で部屋の中を観察する仕組みだった

 村田氏は本展で過去・現在・未来の部屋を設置した。この作品があるのは「過去」の部屋だ。展示室には入れない。中には、アニメーション制作で使用した過去のセットが所狭しと置かれ、これまでに作られた映像が流れていた。そのはざまをカメラ付きラジコンカーが走り、鑑賞者はガラス越しにコントローラーを操作、まさに走馬灯のように「過去」を駆け抜けるラジコンカーの映像をモニター画面で見る。空間に入れないこと自体が、人が過去に戻れないことを体現していた。

コントローラーを操作する鑑賞者。走らせるスピードの調整が難しかった
101 《スタイロフォーム/走馬灯》のコースを駆け抜けたラジコン

 「中に入れない代わりに、媒体を通して操作しているということを感じる空間で、鑑賞者にワクワクしてもらえたらと考えた」「ガラスに赤いフィルムを貼った時にああ、やっぱり血液みたいだなと思い、自分を作っている血液のようにも感じた」と村田氏。展示のために過去のセットを倉庫から出した際には、改めて自分自身を振り返るきっかけにもなったそうだ。

取材・文・会場写真・レイアウト=友永理子
インタビュー写真=髙山瑛子

村田朋泰 ( むらた・ともやす )
 1974 年生まれ。人形アニメーション作家。2002年東京藝術大学修士課程美術研究科デザイン専攻伝達造形修了。有限会社TMC代表。代表作は、『朱の路』『家族デッキ』『松が枝を結び』NHKプチプチアニメ『森のレシオ』、Mr.Children『hero』など。YouTubeで『こぐまのユーゴ』を更新中。

HP:https://www.tomoyasu.net

Twitter:@TMC_1974
Instagram:tmc_staff
Youtube:TOMOYASU MURATA ch
◎展示情報
「どうぶつかいぎ展」
会場 PLAY!Museum
会期 2月5日(土)ー4月10日(日)
◎家村ゼミ展
HP:家村ゼミ展
Twitter:@iemuraseminar

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