演芸ギルドと大阪の講談

今僕はフリーの講談師だ。師匠・玉田玉秀斎が所属していた大阪講談協会を辞められて、僕もそれに従って協会から抜けた為だ。
師匠が生きておられて、ちゃんと講談師をされておられるから僕も講談師を名乗っていられるという状況。つまり素人とは呼ばれないという。

そういう身分だから、これから僕が講談師として生きていけるのか、ご飯を食べるための収入を講談によって稼ぎ出すことができるのか。まあ、平たく言えば食っていけるのか、というのは不安になってくる。

考えてみると講談の世界で僕のような立場の人間はあまりいないし、業界が近い落語の世界でもあまりいない。
東京の講談、名古屋の講談、大阪の講談、東京の落語、名古屋の落語、大阪の落語、そのほかいろんな地方の落語。
協会みたいなのがちゃんとあって皆所属をしている感じ。

そしてそれらの協会と共に、演芸ギルド、みたいなものが成立しているところが多い。
例えば東京、落語芸術協会なんかだと、落語家や講談師が一緒に「寄席」という場所で前座仕事を共にして、仲間として育っていく。
太鼓や着物畳み、楽屋での所作など寄席共通必須科目、みたいなのを構成員が習得することによって、最低限仕事を果たせる人材を産んでいく。

先輩後輩も深いつながりが生まれて、先輩が後輩に金を落としてやる仕組みや、年季が近い者同士で互助をする人間関係が生まれていく。

大阪にも繁昌亭と喜楽館という二軒の寄席があることによって、このギルド感は生まれてきている感じがする。
名古屋はどうなんだろう。大須演芸場がそういう役割を果たしているのだろうか。

他の協会でもそんな感じなんだろうと思う。
みんなで食べていこう、みんなで生活していこう、というシステムが(機能しているかどうかは別として)作られている。

しかしながら大阪の講談の協会ではそういうわけにはいかない。
上方講談のマーケットがギルドを形成できるほど大きくないこと、マーケットが小さいにも関わらず協会が分裂して力を合わせることが難しいこと、落語芸術協会のように寄席で落語家と一緒に修行をして落語ギルドの構成員になる道筋が確立されていないこと、などからこの演芸ギルド制度からは外れてしまっている、そのシステムの力に頼ることが難しいのが大阪の講談なんだろうと思う。その上僕は協会にも所属せずフリーなのだ。

ある人は、上方落語ギルドに客分のような形で参画する、ある人はギルドに頼らず独立独歩で食べていく、またその両方に軸足を置く、などなど様々な生き方で糊口をしのいでいる印象だ。
ともかく講談という芸能で食べていくことは非常に厳しいというのが現状だろう。
同期、少し上の年代の人々を見ていてもその厳しさは震えあがるほどのものがある。

まあ同期の旭堂南歩なんかは、独立独歩で演芸の世界の外に人間関係を作って食べていくということもできるだろうし、落語ギルドに客分として参加できる最低限の仕事をこなす器用さと愛嬌があるからどちらにしたって大丈夫だろうが。

翻って僕はこれから一体どうするのだろうか。落語ギルドに参加する器用さはおそらくないし、人間関係を作るのは上手くない。

やはり独立独歩で行くしかないのだろう。

独立独歩でなんとか僕という講談師を成立させ、外の世界からお金を引っ張ってきて、後輩たちに回してやることができたらどんなに素敵だろうかな、と思う。

そちらの道しかないのだから、覚悟を決めて、外の世界に攻め込んでいかなければ生計は立たないのだ。
師匠から教えてもらったことと、武器としての講談とで外の世界に打って出ないといけない。
幸い僕の師匠・玉田玉秀斎は独立独歩だし、師匠が尊敬されている、僕も非常に何度もお世話になっている旭堂南鷹先生も極めて独立独歩だ。
その背中を僕は見ることができる。
ただお二方ともお二方にしかできない独立独歩なので、同じ道をたどる、というのはむつかしい。
ただ、あれくらい背筋を伸ばして、堂々と自分の道を行けばいい、ということを学ぶことはできる。それは無茶苦茶勉強になることだ。

しかし結局、肝心の自分の道は、一人歩く道は自分で切り開かなければならない。

その為の準備を師匠と相談して開始した昨今なのでこういう記事を書きました。

こんな記事のこんな奥の奥まで読んでくださった方々はぜひ、僕のこれからの様子を観察していてくださいね。
演芸の世界に居るけれど、演芸ギルドに所属できない、協会にすら入っていない人間の様子を。でもこれで食っていくということを諦めてない人間の様子を。
大爆死人生になるかもですが。
まあ大爆死になっても講談は面白いことができるのでそれは救いになりますね。もともと無職ですからまあ、死んでたみたいなものですから。
もし大爆死してもその様子も、講談にしてお取次ぎします。
多分笑えるか泣けるかするでしょう。
そんな感じで3年目、コロナの中で過ごしております。

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