『劇場版センキョナンデス』を観た


 堺筋本町での講談の高座を終えてから心斎橋シネマートへ移動して『劇場版センキョナンデス』を観る。前回この映画館に来たのは『香川1区』だった。選挙を題材にした映画というのは結構制作されていて、僕はそれらを観るのが非常に好きだ。
『選挙』『なぜ君は総理大臣になれないのか』『立候補』『はりぼて』『れいわ一揆』『百年と希望』…。大体面白い。
政治を題材にしたドキュメンタリー映画は驚くほどつまらないことがあるが選挙映画に外れなし。どうやったって面白くなる印象だ。
いい顔といい言葉、悪い顔と悪い言葉、政治家一番の晴れの場であり、後ろ暗いところも無茶苦茶ある。リアルであり、作り物であるというリアル。
選挙は祭りである、というプチ鹿島・ダースレイダー両氏の言葉には大いに納得をするところである。漂白されていない熱気がそこにはある。特に現場にはある。
そんな祭りを切り取った映画が面白くないはずがないのだ。

 今回の『劇場版センキョナンデス』もその流れをくむ選挙ドキュメンタリー映画で、非常に楽しみであった。 劇場は日曜日の最後の回でそんなに混んでおらず、リラックスして観ることができた。

 映画は「ヒルカラナンデス」という時事ネット番組のパーソナリティであるプチ鹿島・ダースレイダー両氏が気になる選挙を漫遊し、そこにカメラが密着している、という形だ。

 これが他の選挙映画とは少し違う。割と候補者に密着することが多いのだけれど、この映画は漫遊者、取材をする者に密着している。
プチ鹿島氏、ダースレイダー両氏ともに前に出ることに長けた人々であるから、カメラの前での立ち回りが非常に面白い。何にはしゃぎ、何を面白いと思い、何をおかしいと思い、何を追求し、何に感動し、何に怒るのか。
選挙、というエンターテイメントだと一般に認識されていないもの、をどう面白がり、エンターテイメントとして観るかを指南してくれる。選挙の面白がり方のコツを無茶苦茶わかりやすく教えてくれる。
今までの選挙映画は画面から匂い立つ面白さをあじわう、感じる、編集や撮り方で作り手の意図をくむ、という面白がり方なんだけど、この映画は何が面白いのか解説がつくから親切設計だ。

プチ鹿島氏は八面六臂の活躍で、自分から取材対象者に仕掛ける。攻めかかる。とにかくいい顔をいいセリフを引き出し続ける。四国新聞記者、立憲民主党幹部たちのそれぞれ動揺はこの映画の見どころになっているし、この仕掛けを見事にいなした辻本清美の底知れぬ怪物感、仕掛けを正面から受けとめつつ自分の持ち技をこれでもかと繰り出して、圧勝をする松川るいの猛者感も素晴らしかった。

 選挙を面白く楽しむ方法を知らない人に指南し、そして更なる面白さも引き出す。そんな映画だった。

混んでいない割に劇場内かなり笑いが起こっていたのも印象的だった。あの、平井元大臣のパレードシーン、小川事務所のシーンなんかはちょっと本当にすごかった。無茶苦茶笑った。

前半は2021年の衆院選香川1区、後半は2022年の参院選、大阪・京都の選挙を漫遊するのだけれど、その途中で安倍晋三元総理銃撃事件が発生する。
僕小学生の時から選挙が好きなんだけど、あの事件が起こった時、本当に苦しい気持ちになったのを思い出した。
選挙を楽しんできた人生そのものに冷や水をぶっかけられたような。選挙を楽しんでいる自分を嫌いになるようなそんな気持ちになったものだった。
あの時のダースレイダー氏の苦しそうな姿、あの日、僕も無暗に同じような状態だったことを思い出す。
映画を観ながら、自分が選挙を楽しむことに疑いを持ったあの日のことがフラッシュバックした。
映画館で僕はここからこの映画を苦い気持ちで見続けることになるんだろうか。あの日、一人で家から出られず、わけもわからず涙を流し、太っているくせに飯を食えなかった7月8日のように。と思った。

映画は続いた。苦しみながらも二人とスタッフの方々はカメラを回し続けた。

そしてあんな事件があった後も、候補者たちは素晴らしい言葉を紡ぎ、表情を見せ、情けない姿をさらし、そして後ろ姿でまでドラマを魅せる。面白い。

こちらの気持ちの落ち込みで色あせるには、あまりに選挙は面白すぎるのだ。
あんなことがあったのに、選挙はやっぱり面白かった。

 この時代、この国に生まれたことは取り消しが効かない事実だ。民主主義と選挙が常にそこにあったし、今後もおそらくあり続ける。
考えうる限り最大の痛ましい事件が起こっても僕にとって選挙は面白くあり続けた。ということがあの日を追体験するような映画の後半を経て、再確認できた。
この楽しみを失わないことが、僕の市民としての行動の指針の大きな柱になっていくことだろう。せっかくだから選挙と民主主義を楽しみ切って、死ぬまでいきたい。そんなことを思った映画だった。

 映画が終わって、心斎橋から梅田へ。梅田で仕事終わりの妻と待ち合わせて十三へ帰るその電車の中で妻に「今日観た映画が面白くて」と話しかけると「また政治の映画やろ?」と言われてこう、なんだ、差し込まれてしまって感想を言うことができなかった。ので、ここに書き残しておくこととします。

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