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【3分解説】日本財政は健全化できるのか

政府による財政黒字に向けた試算公表

・政府は国と地方の財政赤字の解消に向けた試算を公表しました。
・日本が長年続ける財政赤字をいつ終わらせることができるか、ということですが、2021~2026年の経済成長率を実質2.4%、名目3.1%とという前提で、2025年に財政黒字を達成するとしています。
・ただ、過去の経済成長率の推移(コロナ前の2015~2019年で実質で0.91%)を見ると、達成はなかなか難しいように思われます。
・なぜ、政府は達成できそうな目標を掲げるでしょうか。
※2022年1月15日付社説「財政の悪化を直視し抜本改革に備えよ」

日本財政の現状

・そもそも、日本の財政は、現状どのような状態なのでしょうか。
・2021年予算の国の一般会計では、借金の返済・新たな借入を除いた本来の収支でみると、支払83兆円、収入63兆円、と大幅に支払超(20兆円)となっています。これに、借金の返済分である23兆円が加わると、さらに支払超幅は拡大します(43兆円)。この足りない分を、更に借金で賄っている形となっています。

・なぜこのような状況になっているかというと、当たり前ですが、お金の入りに対してお金の出が多すぎるからです。
・何にお金を使っているかというと、先ほど見た通り過去の借金の返済(23兆円)、社会保障費(35兆円)に使っています。
・借金の返済は、既に1,200兆円も借金が積み上がっています。途方もない金額ですね。そして今後も継続的に支払いはつづきます。仮に借金の返済の支払いを止めてしまうと、企業と同じく倒産とみなされてしまい、国としての信用力もガタ落ちしてしまい、通貨である円の下落など様々な問題につながりますから、借金の返済は続けなくてはいけません。一方で、返済のために借金が増えれば、返済額もまた増えるわけで、まさに負の連鎖におちてしまっています。
・社会保障費とは、年金・医療・介護費用です。要するに高齢者が増加するほど増えるわけですが、日本では高齢者が増える中で、平均寿命の増加で加齢に伴い病気にかかるリスクも増加し、結果として社会保障費の支払いも増えています。今後も人口の高齢化が続くことが見込まれますので、一層、社会保障費は増加することが見込まれます。かといって、人命に関わる項目ですから、容易に削ることもできません。
・実際、社会保障費の増加が大きな要因となり、借金の返済を除いた支出と収入ベース(PB、プライマリーバランス)でも20兆円の赤字となっています。
・つまり、支出については、肝心の金額の大きい項目(社会保障費・借金の返済)が今後トレンドとして増加するわけですから、かなり思い切った荒療治をしなければ、歳出を抑制できない状況にあります。
・こうした事情の中で、身の丈に合わない支出を借金してまで続けているわけですね。

・また、収入サイド、つまり税収については、①日本という国の経済活動の大きさ、②その経済活動に対して課す税率(消費税なら10%)、と連動しているわけです。経済活動については、肝心の活動の担い手である人口が減少することが見込まれますので、増加する絵姿はなかなか描きづらいです。かといって、経済活動に対して課す税率をあげれば、タイミングを間違えば経済活動を萎縮してしまい、結局税収が落ちるリスクがありますし、何より国民に負担を求める政策は、国民に選ばれなければ当選できない政治家にとってはやりづらいものです。
・このような苦しい台所事情の中で、政府としてはまず、借金の返済を除いた支出と収入ベースでの財政黒字を目指している、と言うわけです。

財政赤字はいつまで続けられるのか

・では、なぜ、日本政府は財政赤字を続けていられるのでしょうか。企業であれば、赤字を続けていれば倒産を防ぐためにリストラなどでコストを削りますし、家計も赤字が続けば節約をして出費を抑えます。ですが、政府は、先ほど見た通りの事情で、伸びない支出の中で、むしろ支出をどんどん増やしています。
・これは、政府の信用力がとても高い(と思われている)ので、借金ができているからです。政府は、赤字で足りないお金を主に銀行など金融機関から借金をしてまかなっています。日本政府は、企業でいえばトヨタやソニーのようなピッカピカの会社や、個人なら一等地の不動産等優良資産を抱える富裕層のようなもので、いくらでも借金ができる状態ということです。

日本政府は借金をいつまで借り続けられるのか

・では、いつまで借金が続けられるのか、ということですが、これは誰にもわかりません。その道のプロの学者や、金融の専門家でも結論はでていないようです。
・日本政府の借金のお金の出し手は日本銀行(47%)、生損保(21%)、銀行(14%)、海外7%です。
・日本銀行の保有比率は群を抜いていますが、これは安倍政権によるアベノミクスの元、異次元の金融緩和を行い、日本銀行が金融機関から国債を購入し、経済に出回るお金の量を増やそうとしたためです。見方によれば、日本銀行と政府の勘定を合わせて考えれば(統合政府と呼ぶ)、国としては借金はチャラともいえます。ただ、日本銀行は直接政府から国債を買い取ることは法律で禁止されており、保有している国債は全て金融機関から2次取得したいわば中古品です。つまり、一旦金融機関が国債を保有することが前提となっていますので、そのためには、先ほど見た通り日本政府の信用力が高いことが重要といえます。
・日本銀行以外の国債保有者については、海外が一部いますが、国内金融機関が中心ということですね。彼らは、主に個人から集めた預金や保険金を、企業や政府含めた様々な人たちに対して分散して投融資を行うことで儲けていますが、日本国政府に対する債権は優良・安全資産(としてみなされている)であるため、リスク管理上一定程度保有するインセンティブが常にあります。
・また、銀行について言えば、良い投融資先が限られている(総じて企業は業績も良くお金に困っていない)中で、日本の個人の資産運用は銀行預金が中心ですので、銀行からすれば預金が余ってしまっている状況です。余った預金は日本銀行に預けることになっていますが、この際マイナス金利が付与されますので、利息をもらうどころか支払わなければならなくなります。結果として、日本銀行にお金を支払うくらいなら、ということで、日本政府に対してお金を出すわけです。要は、集めすぎた預金の安全な投資先として日本政府を選んでいるというわけです。こうした理由から、国内銀行勢は日本国政府の信用力が高い限り、お金を出し続けるでしょう。

・逆に言えば、日本が借金を継続できなくなる状態とは、国としての信用力がない、と見切られるタイミングということになります。
・日本政府の借金は、ほぼ円貨ですから、いざとなれば円を大量に発行すれば借金を返せるという見方もあります。(ただ、この場合、円に対する信頼が失墜し、円は大幅下落、物価は大幅高になり国民生活は大混乱になるかもしれません。)
・ですので、借金のことは一旦置いておいて、むしろ日本政府はしっかりと経済を上昇軌道に乗せるよう、財政支出を積極的に行うべき、とする主張もあります。
・また、もはや日本政府の借金をどうこうすることは不可能で、日本政府の信用力を見切られるタイミングは必ず来るため、それに備えるべき、とする議論もあります。

・要するに、日本の膨らんだ借金をどうすればいいか、という問題に対して、納得できる答えは誰も提示できていない、と言うわけです。
・ただ、財政再建を放棄する姿勢を見せれば、日本政府に対する信用力は一気に失われる可能性がありますので、健全化に向けた姿勢は政府は堅持をせざるを得ませんね。

こうなる前に何かできなかったのか

・では、こうなってしまう前に、過去どうにかできなかったのか、という疑問が湧きますね。
・大きな論点としては、①適切なタイミングで経済活動に課す税率の引き上げ、②社会保障費の思い切った抑制、が考えられます。
・①については、経済活動に与える負の影響が懸念されるほか、特定の経済活動の税率を引き上げると、国として経済に対して過度に介入することになる(し、利害関係者の調整が困難になる)点が問題視されます。そこで、経済主体に対して中立的と考えられる消費税が引き上げの対象となり、過去引き上げられてきた経緯があります。
・ですが、冒頭に申し上げた通り、経済活動に対する課税はタイミングを間違えると負の影響が大きく出てしまうわけですが、やはり、過去の実施において実施後に経済は大きく落ち込みました。
・経済活動の先行きを正確に把握することは超優秀な専門家を選りすぐって集めても難しいということでしょう。(むしろできるならば、株式投資はとても簡単なものになるでしょう。)
・②については、日本は国民皆保険制度により、日本人であれば公的医療保険に加入し、だれでも全国どこの医療機関でも医療サービスを受けることができますが、その代償とも言えます。平均寿命や病気毎の死亡率で見ても他国と比べて高い健康水準を確保できていますが、この恩恵に真正面から切り込む政権は過去いなかったようです。

なぜ岸田政権は困難な目標を掲げるのか

・このように日本の財政の論点を確認すると、現在の政権が今の達成できなそうな目標を維持する理由が見えてきます。
・当然、財政赤字を続ける目標は評価されません。特に、秋に控える参議院選前に、政権の能力を疑問視されるような目標をたてることはできません。
・ですので、収入を増やすか支出を減らすか選ばなければなりませんが、先ほど見たように、日本の借金がどこまで可能か、専門家の中でも明確な答えがない中で、歳出を削減する道筋は描きづらいと言えます。
・ですので、収入を調整し、その中でも税率と異なり調整が容易な経済成長率を前提条件として調整し、実現可能性が難しい水準に置かざるを得なかった、と言えます。また、実現可能は難しいという点を除けば、経済成長率を高めるという目標は前向きなものですから、批判されるものではないかもしれません。
・ただ、経済成長率を高める施策として、新しい資本主義構想や、デジタル庁の旗振りによる日本社会のデジタルトランスフォーメーション、脱炭素に向けた新たな産業形成などの成長戦略を描いていますが、具体的な道筋は明確ではありません。
・ただ、やはり実現可能が難しい目標を掲げたからには、そのための道筋を丁寧に説明してほしいところです。

ではどうすればいいのか

・では、政府の目標は別として、そもそも財政再建のために必要なこととは何でしょうか。効果が大きいものとして、適切なタイミングの税率の引上げと、社会保障費の抑制が挙げられます。
・前者についてはタイミングを見抜くことは難しいですので、社会保障費の抑制とセットで、計画的に進めるしかないのではないでしょうか。
・といって、仮にある政権がこのような計画を立てても、支持率が下がるとか、支持率低下を懸念する与党議員による首相下ろしの動きが出て、政権が交代するリスクは十分にあります。こうなってしまうと、せっかくの計画も継続的に実現できません。
・特に、社会保障費の抑制は既に国民が手にしている高水準の社会福祉サービスという恩恵に切り込むものですから、時の政権には相応の覚悟とこれをサポートする体制が必要です。
・ですので、与党だけではなく、野党も含めて超党派で財政再建に向けた計画を取り決め、景気の変動や政権与党がどこかに関わらず、着実に実行するべきではないでしょうか。
・過去を振り返れば、自民党と民主党が超党派で合意したこと(2012年に超党派で合意し、2015年までに消費税を10%に増税実施計画の法案を可決)もあります。この内容自体の是非については議論はありますが、仕組みとしては参考にできるのではないでしょうか。

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