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第2章 会社の「安全性」を見るポイント


5.「固定長期適合率」は流動比率の裏返し



固定は固定どおし、長期は長期どおしで

 長期的な投資は返済不要の自己資本の範囲内で行うのが経営の理想です。
先に見た固定比率は100%以下であるべきです。
 固定比率が100%を超えている会社は、自己資本を超えた固定資産投資、身の丈を超える設備投資を行っている可能性があります。
 しかしそれだけで、財政状態が不健全だと決めつけるのは早計です。

 通常、自己資本を超える設備投資を行う場合は、長期借入金や社債などの長期返済による資金調達を考えます。長期間回収できない固定資産投資が、長期間借りていてもよい固定負債でまかなわれるならば安全だからです。
 その結果、自己資本の範囲内での投資は無理でも、自己資本と固定負債の合計である長期的な資金調達での固定資産投資は可能になります。
 そこで固定比率が100%を超えている場合は、続いて「固定長期適合率」で長期的な資金繰り状況をチェックします。

 固定長期適合率は固定比率を補完する意味合いをもった経営指標であり、長期的な固定資産への投資が、返済不要の自己資本と固定負債の合計額以下であるかどうかで設備投資の安全性を判断します。

 何とも難しい響きの言葉ですが、固定長期適合率とは、「固定資産への投資額が、長期的な資本(固定負債と純資産)と上手く適合しているか」を見る比だと捉えてください。「長期長期どおし、固定固定どおし」での調達と運用が経営の基本なのです。


設備投資は固定負債と返済不要の自己資本で行っているか?


 固定資産の箱が自己資本の箱を超えると固定比率が100%を超えますが、固定資産の箱が自己資本と固定負債を重ねた箱より低ければ、長期的なお金の集め方と使い方に問題はありません。
 この状態であれば、固定長期適合率が100%以下となります。


「固定長期適合率」を裏返せば、流動比率

 これまで、貸借対照表の左右のバランスでお金の集め方と使い方の健全性を見るために「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」を取り上げてきました。
 このうち流動比率と固定長期適合率は、貸借対照表を同じ線で上下に切り分け左右のバランスを評価する指標なので、それぞれ深い関連があります。

 固定長期適合率が100%未満であれば流動比率は100%を超えます。中期的な資金バランスだけでなく、短期的な資金繰り状況も良いということです。  
 一方、固定長期適合率が100%を超えるならば、流動比率は100%未満となります。固定長期適合率が100%を超えるということは自己資本と固定負債の合計額を超える固定資産投資を行っているということです。
 このような会社は、本来、短期に返済する予定で調達した短期借入金が、長期的な設備投資へ流用されていることを意味します。流動負債が長期投資に運用されており、資金の調達と運用のバランスが崩れているといえます。

固定長期適合率は流動比率の裏返し


 個人生活でいいますと、消費者金融で借りたお金でマイホームを取得するにも似た行為ですので、避けなければなりません。
 貸借対照表の下半分(長期的な資金繰り状況)のバランスが悪い場合は、上半分(短期的な資金繰り状況)のバランスも悪いのです。


業種の特性も考慮に入れよう

 ただし、JR西日本のように固定資産の保有額が多い設備投資型産業で流動比率が100%未満の会社は、当然ながら固定長期適合率は100%を超えます。
 また、現金商売で商品回転率の高い小売業などでは、売掛金や棚卸資産が少ない一方で、買掛金などの流動負債は多く計上されます。
 これらの会社は、固定長期適合率が100%を超える(=流動比率が100%未満である)けれども、資金繰りに窮しているわけではありません。むしろ、日々の運賃収入、売上高を現金回収するため資金繰りは安定しています。 

 

設備投資に無理がなくても固定長期適合率が100%を超えるケース


 固定長期適合率が100%を超える、裏返せば、流動比率が100%未満であるすべての会社で、資金調達と運用のバランスが崩れているわけではないということですね。
 このような会社のうち、収益力が高く利益を計上していて事業継続に問題がない会社では、低金利での短期借入金の書き換えを継続することにより、設備投資や店舗投資のための資金調達を有利に行うことができます。


 貸借対照表の左右のバランスで資金繰り状況の健全性をみる「流動比率」と「固定長期適合率」などは、業種や個別企業の特殊事情を考慮したうえで評価することが大切です ♪

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