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第4章 知っておきたい「キャッシュフロー経営」の基礎


2.儲かっているのにお金がない、なぜ?


「利益」と「資金」は一致しない

 損益計算書での「利益」と手許に残る「お金」が常に同額であるならば、利益管理だけで経営の舵取りは可能です。
 キャッシュフロー計算書を作成する必要もない、ということですね。

 しかし企業会計での収益や費用は、現金の出入りで記録する「現金主義」ではなく、会計的な事実の発生によって認識する「発生主義」により計上するルールです。

 たとえば商品や製品を出荷すれば、売上代金の回収にかかわらず売上高が計上されるため、損益計算書の売上高とキャッシュフロー計算書の売上収入は同額ではありません。

 また売上原価とは、仕入れた商品のうち当期中に売上計上した商品の仕入原価です。仕入れた商品が売れ残った場合、商品代金は費用に計上されず、在庫として資産に計上されます。しかし売れた商品の仕入代金だけでなく、売れ残った商品分も支払わなければなりません。損益計算書の売上原価と、キャッシュフロー計算書の商品仕入支出は一致しないこととなります。

 販売管理費については、当期分の諸経費が期末時点で未払いであったり、翌期分の諸経費を当期に前払いすることもあります。損益計算書の販売管理費とキャッシュフロー計算書の販売管理費支出は同額ではありません。

 このように収益と収入は同額でなく費用と支出も同額ではないのです。
 結果として、収益から費用を差し引いて求める「利益」と同額の「資金」(=収入-支出)が手許に残っているとは限らないわけです。

 儲かっていてもお金がないことを「勘定合って銭足らず」といいますが、そのような事態を招かないために、利益と資金が一致しない原因を把握し、「勘定合って、銭も足りる」経営を目指す必要があります。

 そのために、損益計算書の利益だけで会社の業績を評価するのではなく、キャッシュフローにより、会社の資金力を判断することが大切なのです。


儲かっていてもお金がない、なぜ ?

 損益計算書の「利益」とキャッシュフロー計算書の「資金」のズレを生む主な原因として、次の5つ(信用取引、棚卸資産、借入金の元金返済、設備投資、法人税等の納付)があります。

(1)信用取引
 売掛金や買掛金などの「信用取引」は利益と資金のズレを生みます。
 売掛金で回収を待たされる代わりに、買掛金で支払いも待ってもらえる信用取引は、利益と資金の時間差を生む代表選手です。掛け売りであっても、商品を出荷すれば売上高に計上され、損益計算書での利益は増えます。
 しかし、売掛金を回収するまでお金は増えません。売掛金の回収期日が来て得意先に回収に出向くと、約束手形を渡されるかもしれません。その後、手形が期日落ちするまではお金になりません。
 無事に現金回収するまで売掛金や受取手形は「絵に描いた餅」なのです。

 反対に原材料や商品をツケで仕入れた場合には、買掛金の支払いを期日まで猶予してもらえるので、資金繰りが楽になります。


(2)棚卸資産
 続いて、利益と資金のズレを生む原因は、棚卸資産(在庫)です。
 当期に仕入れた商品、作った製品がすべて当期中に売却され、売上代金を無事回収すれば在庫に投資したお金を回収できます。
 しかし実際には、商品仕入に投資した金額を売上入金という形で回収し、現金化するには時間を要します。
 しかも通常の商売では、売上代金の回収期日よりも先に、商品仕入代金の支払期日が到来します。売上入金を待っている間に、支払代金を用立てなければならないのです。

 これら(1)信用取引と(2)棚卸資産に関する回収と支払いの時間差から生じる資金が、商売を続けるうえで必要とされる「運転資金」です。
 運転資金とは、「ツケで仕入れて、在庫を抱えて、ツケで売る」という通常の商売を続けるうえで必要となる資金需要額といえます。


(3)元金返済
 3つめの原因は、「借入金の元金返済」です。
 借入金に対する支払利息は損益計算書の費用に計上されますが、借入金の元金返済は費用ではないので損益計算書に計上されません。仕入、諸費用を負担した後の当期純利益から追加的に資金が流出するのです。


(4)設備投資
 4番目の原因には、設備投資による支出と費用化の時間差があります。
 固定資産を新たに取得して事業のために使用する場合、その購入価額は一時の費用にはなりません。その後、資産ごとの耐用年数に応じた減価償却費を計上することにより、購入後の事業年度で徐々に費用化されます。


(5)法人税等の納付
 5番目の原因は、法人税等を納付するタイミングがズレることです。
 前期決算にかかる法人税等は、当期首から2か月以内に当期のキャッシュフローから支払います。税金は後払いなのです。通常の納税分だけでなく、税務調査による更正処分で追徴課税がなされた場合などは、過去の事業年度に対する法人税等の支払額が思わぬ資金負担となってしまいます。


 これらの5つの原因の他に、減価償却費や引当金の繰入額、資産の評価損などの資金流出のない費用(非資金費用)は、利益と資金の違いを生む原因でありながら、キャッシュフローの余裕を生む項目です。
 非資金費用は、損益計算書において費用計上されるものの外部への資金流出はないため、利益の額以上に資金を残してくれる効果があります。

キャッシュフロー改善の鉄則

 このような利益計算と資金計算との違いを生む原因のうち、営業活動キャッシュフローに大きな影響を与えるのは「売上債権」と「在庫」です。
 キャッシュフロー改善のためには、売上債権と在庫の管理が不可欠です。

(1)売上債権の早期かつ完全回収!

 売上債権の管理のためには、売上代金の回収を待たされている月数である「売上債権月商倍率」(=売上債権÷平均月商)を計算し、毎月、異常に伸びていないかチェックします。
 この他、回収状況を示す資料として「売掛金残高一覧表」「売掛金の年齢調べ表」を作成することで売掛金の回収遅れの発生を防ぎます。

売上債権の管理でキャッシュフローを改善!


 また、営業担当者が請求書の発行と回収の両方を行うことがないように、営業部と経理部の職務分担と担当者を明確に区分します。不正を防ぐため、そして「売掛金の不正着服」や「入金たらい回し」など従業員に罪を作らせないために、内部統制の構築と整備が大切です。

 年次決算作業においては、得意先に「売上債権の残高確認書」をメール、封書等で送付し、相手先の仕入債務の額と相違がないか確認を求めます。

 取引先の倒産による焦げ付きリスクを避けるためには、相手先ごとの与信限度額を設定し、限度額を超過する受注は禁止するなど「与信管理制度」の整備と運用も求められます。


(2)棚卸資産

 棚卸資産については、月次ベースで棚卸資産月商倍率(=棚卸資産÷平均月商)を計算することにより、月商に比較して棚卸資産が増大していないか計数面でチェックします。仮に、棚卸資産月商倍率が1倍ならば、1年間で12回入れ替わる、ほぼ1ヶ月で在庫をさばけることを意味します。

 

棚卸資産の管理でキャッシュフローを改善!


 またコスト対効果も考慮に入れながら、販売時点の売れ筋情報をつかむPOS(Point of sales)に加え、SCM(Supply Chain Management)、JIT(Just in time)など適正在庫量を保つ管理システムの導入も検討します。


 帳簿の継続記録だけではなく、決算において棚卸資産の実地棚卸を行い、「Price(価格)」と「Quantities(数量)」の両面をチェックします。
 「棚卸資産会計基準」では、収益性の低下した棚卸資産は、期末時点の「時価」(商品は正味売却価額、原材料は再調達価額)まで帳簿価額を切り下げて評価する会計処理が原則となっています。


 キャッシュフロー改善のためには、売上債権と棚卸資産をしっかり管理、つまり「運転資金」の管理が重要となります。運転資金は、売上債権と棚卸資産の合計額(お金の運用額)が、仕入債務(お金の調達額)を超えることで生じる資金需要額であり、キャッシュフローの悩みのタネなのです。


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