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第4章 知っておきたい「キャッシュフロー経営」の基礎


3.「減価償却費」が果たす2つの役割


「減価償却費」の節税効果がキャッシュを生む

 会社が事業供用している固定資産のうち、時間の経過や使用により価値が減少する資産を「減価償却資産」といいます。減価償却資産への投資額は、購入時には資産計上しておき、その後の事業年度に「減価償却費」を計上することで費用化されます。
 減価償却費とは、「値が少する部分を用」と書くとおり、固定資産の価値減少部分を、収益獲得に貢献する期間にわたって費用計上(償却)することで資産価値を減少させることをいいます。


節税効果で資金を回収する

 会計上、減価償却費の計上には、「資金回収」と「期間対応」という2つの大切な意味があります。

 1つめは、資産購入で支出した資金を、その後、お金が流出しない減価償却費の計上で取り戻していくということです。
 資金流出がない減価償却費が損金算入されることで、減価償却費を計上しない場合よりも減価償却費の「節税効果額」だけ、手許に資金が残ります。 

 次のとおり、減価償却費を計上する場合の手許資金(450)は、減価償却費を計上しない場合の手許資金(420)よりも減価償却費の節税効果額(30=100×30%)だけ多くなります。(実効税率を30%として計算)

減価償却費の計上により資金を回収する


 なお、減価償却費を計上した当期純利益(350)に減価償却費の額(100)を加算しても、最初から減価償却費を除外して計算した当期純利益(420)に減価償却費の節税効果額(30)を加算しても、手許に残る資金(450)の計算結果は同じです。

 このように、減価償却費計上後の当期純利益よりも減価償却費の額だけ、手許に残る資金が多いため、キャッシュフロー計算書では減価償却費を利益に加算するわけですね。


収益と費用が対応する

 続いて、耐用年数にわたり減価償却費を計上することで、収益と費用を「期間対応」させるという2つめの意味があります。

 高額な固定資産を購入時に一括して費用化したり、売却や除却したときに初めて損失計上することは、正しい会計処理ではありませんし、利益の額が歪んでしまいます。
 収益獲得に貢献する期間である耐用年数にわたって費用化させることで、売上高と減価償却費が対応し、正しい期間損益を計算できます。

 なお会社法では、「償却すべき資産については事業年度の末日において、相当の償却をしなければならない」と明記しています。
 しかし会社計算規則には減価償却費の詳細な計算方法の定めはないため、基本的に、多くの会社は税法の規定により償却計算をしています。

 ただし一方で税務は、償却限度額以下であれば減価償却費の計上は任意、つまり減価償却費を計上するかしないかは会社が自由に選択できます。減価償却費を計上せず利益(所得)が多くなれば、納税が増えるわけですから、徴税を行う税務当局としても文句は言いません。
 しかし、減価償却費を計上していない会社の損益計算書は正しい利益を報告しているといえません。適正な減価償却費を計上した後でも利益を確保しているならば、その会社の資金繰りは利益以上に余裕があるといえます。

減価償却費が果たす資金回収と期間対応に2つの役割


減価償却費の主な計算方法

 減価償却費の代表的な計算方法は「定額法」と「定率法」の2つです。
 定額法は、「取得価額×償却率(=1/耐用年数)×事業供用月数/12」の算式により、毎期の償却限度額を定額で計算します。
 法人税法では、無形減価償却資産、1998年4月1日以後に取得した建物、2016年4月1日以後に取得した構築物および建物附属設備は定額法で償却計算しなければならないルールになっています。

 一方、定率法とは、毎期一定の割合で償却費が逓減するように、耐用年数に応じた一定の償却率により償却計算する方法です。定額法と比較すると、事業に使用した当初に多くの減価償却費が計上されることで、コストの先取りが可能です。投下資本の早期回収という視点で「節税」を考えるならば、定率法がより望ましいといえます。

 具体的には、「期首帳簿価額(初年度は取得価額)×償却率×事業供用月数/12」の算式により減価償却費を計算します。ただし、耐用年数の途中で、定率法の年償却費が償却保証額(=取得価額×保証率)に満たない事業年度が到来したら、定率法から均等償却に切り替えて償却計算を行います。


耐用年数で定額または定率で償却計算を行う


 定額法、定率法のいずれも、損金に算入される減価償却費は事業供用月数(1か月未満の端数は切り上げ)に対応する部分のみであり、耐用年数経過時点に1円(残存簿価)まで償却できます。

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