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支配から理解へ〜猿人類の社会で愛情について考えた。を読んでみて〜

 先日「猿人類の社会で愛情について考えた」を読んでみた。この本を読んで思ったことは「支配しない。理解する」という言葉の大切さだった。この本の著者は、上野動物園や多摩動物公園に勤務し、主に大型類人猿の飼育を担当していた。大型類人猿の飼育経験を基に他者と心地よく共存していくヒントがたくさん詰まった本である。

言葉がない世界で生き抜くには

 人間と大型類人猿との違いは言葉があるかどうかである。私たちは言葉を通じて他者との関係を構築する。SNSやLINEを使ったコミュニケーションはもはや当たり前のツールになっている。ただ、相手の表情や仕草が見えないSNSのコミュニケーションによって、パートナーと喧嘩し、大きな問題に発展することも少なくない。問題が生じたとき言葉があれば「また明日話そう」「今度にしよう」などと問題を後回しにすることもできる。

 しかし、言葉がないとどうだろうか。相手がゴリラだと、そういうわけにはいかない。いつも、その瞬間がすべてだ。この本によると、ゴリラは大きな体に似合わず繊細でやさしい動物だ。繊細だからこそ、1対1の関係が大切であり、言葉が通じなかったとしても、その場その場で相手と向き合い信頼関係が築いていくことが求められるのだ。つまり、人間相手であれば言葉によって問題を回避することができたとしても、言葉がない相手と接したときにはごまかしが効かないのだ。

 この本を読んで最も印象深いエピソードがある。1989年、保護が必要な動物を、種ごとに1つの都立動物園などで集中して飼育して、繁殖を推進しようとする「ズーストック計画」を策定された。著者は「ズーストック計画」に従い、ゴリラは上野動物園に集中飼育することになった。「ズーストック計画」に参加をした動物園のゴリラを上野動物園に引っ越ししようとしたときのことである。そのときに移動用のオリからゴリラ舎に移すときに、エサで釣って急かしてしまったという。ゴリラは自分で納得しない限り動かない繊細な動物である。無理に動かそうとすればその人を信用しなくなる。21日間かけて著者はなんとかそのゴリラの信用を勝ち取ることができたのだが、痛感したそうだ。

ゴリラには言葉がありません。だからこそ、1対1の関係が大切なのです。その場、その場で相手と向き合い、信頼関係を築いていくのです。ゴリラにもヒトと同じようにプライドがあります。頑固者です。そして、とても木が小さいのです。自分で一つひとつ行動を噛みしめて、納得してからでないと次には進めないんですね。ゴリラたちは、私たちと違って、時間の感じ方が非常にゆるやかです。だから、人間が急かすようなことをすると、信頼が損なわれます、それを忘れないことがとても大切なのです。

猿人類の社会で愛情について考えた。 黒島英俊


パートナーと心地よく共存していくヒントとは

私たちは言葉を持っている。言葉は人と人との関係を和らげるポジティブな側面もあれば、その場で真摯に向き合うことを後回しにしてしまうネガティブな側面もある。後回しにし続けたことで、他者とのすれ違いが悪化してしまうこともあるだろう。この本は他者と接するときに、一瞬一瞬の深いつながりの大切さを私に教えてくれた。そして深いつながりを築く上で大切なのは相手が納得してくれるまで待つこと。恋愛においてもまたパートナーとの距離が縮まることで問題を後回しにするだけでなく自分のペースに相手を支配しようとしてしまうこともあるだろう。そのときに一呼吸をおいて相手の様子を観察する。その上で相手が納得してくれるにはどうすればいいかを考え、行動することが恋愛で上手くいくヒントだ。


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