忘れられないと、本と。

ショートケーキの本

 それは、王道中の王道。
 そういえば前、あの人が好きだったっけ。
 いちごから食べるか、大事にとっておくか論争。
 シンプルなケーキ。だからこそ、いつでも食べられると思ってしまって、なかなか最近食べる機会もなかったなあ、と。
 そんな、ふと浮かんだものたちに誘われるように、その本を手にとった。

待ち合わせの読書

 早めに着いた待ち合わせ場所。
 待ち時間って、そわそわしてしまうその時間。
 でも、時間を忘れてのんびり待つには遅れそうな、中途半端さ。
 ブックカフェで、腕時計を片手に本を開く。
 途中で中断しないといけないかもしれない、とヒヤヒヤしすぎない、短編小説集。
 もちろん次の予定までに気が動転しすぎない程度の、刺激物は避けた。
 そんな中選ばれた1冊。
 話がひとつ終わるごとに、まだ読める、大丈夫と確認しながら進めるページと、読み進めるごとに心に積もる優しいほっこり感が久々で、嬉しくなった。
 どんどん落ち着く心と、そんな小説を選べた喜びとで、ほのぼのとした落ち着きと誰かに伝えたいくらいの驚喜が入り交じり、胸中は大騒ぎ。

再会して再発見

 久しぶりに、ショートケーキを食べてみようかという気持ちになった。
 タルトが好きで、フルーツが乗っていればさらに嬉しくて、ショートケーキなんて、という気持ちが今までなかったとは言えない。
 でも、たくさんのショートケーキによる幸せのお裾分けを見て、食べたくならいほうが難しい気がしてくる。
 それはそうだと、ある日見かけたショートケーキを食べてみた。
 生クリームのほんのりとした優しい甘さと、甘酸っぱさのあるいちご、最高。
 どうしても最後を、倒して食べるべきか、倒れないように器用に食べようと奮闘すべきか、倒れないことを第一に高さも削りながら食べてみるべきか、葛藤はあったものの、それ以外は幸せしか頭の中を占めるものはなかった。
 ショートケーキって、美味しい。
 美味しいからこそ王道なのは頭では理解しつつ、やっと腑に落ちた気がした。

追想

 定期的に、生クリームが食べたくなる。
 ショートケーキの小説を読んだからではない。
 口いっぱいに広がる優しい甘さが不思議と欲しくなる。
 なにも、ショートケーキでなくてもよかった。
 そのはずなのに、あれからショートケーキを食べたくなるときがある。
 もういっそ、ホールケーキを食べてみたら、こんな衝動も落ち着いてくれるようになるものなのか。
 とてつもなく特別な日じゃなくていい、ちょっとしたご褒美に、たまにはケーキ屋さんをのぞいてみようかな。

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