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すべてがFになる

あらすじ

 孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。 彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。
 偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。

感想

 随分昔に読んだ記憶があるけれど、ちゃんと読んでおいてこのトリックを覚えてないわけがないので、多分途中で読むのをやめたのだと思う。ということで、殆ど初めて読む作品。

 森博嗣のデビュー作ではあるが、もともとはシリーズ第4作として構想されていたらしい。ただし、デビュー作は派手なほうがよいとの編集部の意向により本作がシリーズ1作目になったとのこと。
 それも納得な、孤島の(今読むとあれ?と思うところがなくはないけれど)最新のテクノロジーが搭載された研究室で、15年もの間完全に外界と隔離された密室空間で過ごしていた天才工学博士が、ウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体で発見されるという、いろんな要素を詰め込み過ぎだろと思ってしまうような設定。
 そして事件の派手さだけでなく、探偵役の犀川や助手役の萌絵のキャラクターも面白く、張り詰めた事件の中時折挟まれる「意味なしジョーク」とも呼ばれるなんとも言えない間の抜けたジョークが、いい具合に張り詰めた気持ちを和らげてくれる。

 そして肝心のトリックだけれど、そんな予想もしていなかった角度から攻めてくるかという、いい意味で破茶滅茶なトリック。ただし、状況を改めて整理すると『確かにそれしかあり得ないよな』と思わせるもので、そういった面では論理的なものでもあった。
 また、個人的に理系大学出身でエンジニア職をしているため、少なくとも『すべてがFになる』という言葉の謎は解く事ができたなと、少し悔しい気持ちも感じた。

 そして死生観についても踏み込んだ話をしており、以下描写が特に印象に残った。

「死を恐れている人はいません。死に至る生を恐れているのよ」四季はいう。「苦しまないで死ねるのなら、誰も死を恐れないでしょう」

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