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占星術殺人事件

あらすじ

 密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。彼の死後、六人の若い女性が行方不明となり肉体の一部を切り取られた姿で日本各地で発見される。事件から四十数年、未だ解かれていない猟奇殺人のトリックとは!?

感想

 推理小説の名作中の名作すぎて『今更読むのもなー』となってしまい、読めていなかった作品。

 前半部分は密室で殺された画家が遺した手記の記載から始まるのだけど、正直それがとにかく退屈で、作中で探偵役の御手洗潔が「電話帳を読まされている気分だ」という程のもの。なんとなくで読み始めると、ここで読むのをやめる人もいそう。伊坂幸太郎が本作品を推理小説初心者には向かないとは言っていたけれど、その通りだと思う。
 それからもしばらくは40年前の事件の詳細を語るのみ。動きは何もなく、探偵役の御手洗へ助手役の石岡が口上で事件のあらましを説明するだけの描写がひたすら続く。猟奇的かつ不可解な事件なので興味深い内容でもあるのだけれど、事件は前進も後退もしないので、どうしても退屈を感じてしまう。

 ただ、事件の説明以降、御手洗潔が調査に乗り出すところから大きく物語が動いていき、そこからはもう一気読みだった。
 事件から40年が経ち、日本中で話題になり全国のミステリーファンが挑んだが誰も解く事ができなかった謎という設定だけれど、それも過言ではないほど類を見ないほどの難攻不落な謎で、読み進めるほどに御手洗潔がどうこの謎を解くのかという好奇心が肥大化してくる。

 そして、作者・島田荘司から読者への挑戦を2度も挟みつつ、謎解きパート。
 もう脱帽だった。1つだけの発想、しかも随分とシンプルなトリックで、難攻不落だと思われていた謎を芋づる式に全て解いてしまう。
 名作ともてはやされている本作だけれど、これでもまだ過小評価なんじゃないかと思えるほどの衝撃的なトリックだった。

 こんな読書体験をできることは人生で数えるほどしかないだろうという作品。ほんの少しでもミステリーを好きな人なら、(前半の退屈さえ乗り切れば)必ず楽しめると思う。

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