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ともに過ごす日々のこと

「まだ付き合いたいって気持ち、残ってる?」

 まだ寒さが厳しい二月。十二時を過ぎた頃。
 電話の向こうで、君はさらりとそういった。


 
 初めておれが君と会ったのは、柏のシェアハウスだった。他にもたくさんの住人がいるなかで、おれは君と出会った。
 
 めっちゃ人気者やなあ

 初めの感想はそんなものだった。君のまわりにはたくさんの人がいて、いつも楽しそうな笑顔に囲まれていた。
いるだけでまわりの人にハッピーを振りまいてる、そんな感じ。
話してみたいな、って思った。

そこから、いろんな話をしたね。
おれたちは全然違うタイプの人間で、それでも不思議と気が合った。

聞くことが好きで、人の言葉を受け取るのが得意なおれ
話すことが好きで、周りを巻き込むのが得意な君

お互い自分にないものを持っていて、話していると元気になれた。君と話す時間が好きだった。大切な人として、この先も関わり合っていきたいって、そう思った。

だけど、その当時おれには付き合っている人がいて。一度君とは恋愛としての関係を切ってしまった。

大切な人は一人じゃなくてもいい。
大切な人を大切にするのがおれだけじゃなくてもいい。

大事な人が他の人に大事にされていても、それはそれで幸せなことだと、おれはそんな風に考えている。だから、前の彼女も、君も、どちらも大切にしたかった。
結局、うまくいかなかったのだけれど。
それでも、おれにとって君はずっと大切な人だった。

「いつかみんな、いなくなっちゃうんじゃないかって…」

下北沢の居酒屋で。
二人で話しながら、君はぽろりとその言葉をこぼした。
声がかすれて、悲しげで、苦しげだった。

恋愛関係が終われば、その人とはおしまいになってしまうと。
いつの日か、みんな離れていってしまうと。

そんな不安を話してくれた。

「いなくならないよ」
 
 おれは、離れていかないから。
 ずっと、君のそばにいるから。
 たとえおれたちの間にあるのが、恋愛関係でなかったとしても、
 この先も一緒に生きていきたいと、
 そう思っているから。

 君はかすかに笑った。
「信じたい」
 
 信じてほしい。
 おれが君を大切に思っていること。
 人生という単位で、ともに在りたいと思っていること。

 去年の年末、一度そのことについてちゃんと話そうと思った。おれの価値観を変えるつもりはないけど、それでも君に笑ってほしいと思って、それなりに心の準備をしていた。
 それなのに君、約束の時間に来ないから。
 ああ、これは酔っぱらってるなと思って、そうしたら案の定、めっちゃ酔っぱらってて笑ってしまった。
 話したいことは全然話せなかったけど、そういうところも好きだと思った。

 この先の未来はどうなるか分からない。
 それは誰にも分からない。
 恋人としての関係が続けばいいなと思う。
 だけど、そうじゃなくてもいい。

 この先もずっと、君の隣におれがいればいいと思う。

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