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レモンのなかみ(1075字) #シロクマ文芸部

レモンからトランプが出てきたので驚く。

一般的な家庭の、一般的な冷蔵庫から取り出した、一般的なレモンである。

ハイボールを作ろうとして、まな板の上でレモンをパッカーンしたら出てきたトランプ。レモンごと真っ二つにされてしまった、かわいそうなトランプ。ハートのエースも泣いている。

茫然とレモンを眺めていると、後ろから兄が「あーッ!」と叫んだ。

「そのレモン、俺んだぞ!」

一瞬ダジャレか?と思ったが、違った。それを言うなら「そのオレンジ、俺ん家オレんちのだぞ」である。言ったことは無いが。

「なによ、このレモン。トランプ入ってて使えないんだけど」

私が冷静に訊ねると

「おれが……。俺が大事に育てたレモンだったのに……」

と、がっくり肩を落とす兄。

「え。まって。育てたの?これ?」
「そうだよ!まだ試作品だけど」
「なんでトランプ入ってんの?」
「マジックショーでよくあるだろ。アレだよ。アレ」

ああ、アレか。
マジシャンがトランプに観客のサインを書かせ、レモンの中に隠す……というアレ。

「いやいやいや、作れないでしょ。なに言ってんだオメー」
「いや、作れる。肥料さえ工夫すれば」

兄がキリリと珍しく真剣な顔をする。

「トランプの粉と、観客の髪の毛や爪などがあれば可能。」

兄がレモンからトランプを引き抜くと、そこには見知らぬサインが書かれていて思わずゾッとする。

「いや、こえーよ」

どんな錬金術だ。ていうか誰のサインだ。
至極真っ当な感想だと思うが、兄は不思議そうな顔をしていた。
そういえば、生物学か何かの博士号とってたな、兄。興味なかったけど、こんなところで兄の実態を目の当たりにする事になろうとは。

「その才能、別のところで使ったほうがいいよ。使い道わからんけど。」
「うん、俺もいろいろ使い道考えてて。今さ、レモンの中に指輪が入ったヤツを育ててる」
「え?プロポーズの時にレモンパッカーンしたら、指輪ポロローンみたいなこと?」
「そう。ソレ作ってなつみに渡そうと思ってぇ……」

突然兄がデレた。
ちなみになつみとは、兄と長年お付き合いしている彼女さんである。

「マジシャンでも無いのにどういうつもりだ。突然やられても気色悪いわ。」
「えっ、コレきもちわるい?もう給料3ヶ月分かけて育てちゃった。どうしよう……」

なんだろう。兄のよくわからない才能に心がザワザワする。
そのうちレモンから生まれたレモン太郎とか生み出してしまうんじゃないだろうか。
得体の知れないこの『才能』がこわい。

拝啓    未来のお義なつみ姉さんへ。
逃げるなら早めに逃げたほうがいいです。
後悔無きよう、お願いします。
妹より。

🍋🍋🍋

こちらの企画に参加させていただぎました🙏

この兄は人当たりの良いマッドサイエンティスト(※イメージ)です。1時間くらいで一気に書いた。一体私は何を書いているんだろう。たぶん、まだ桃太郎とスイカ太郎にひっぱられてる。そろそろ現実に戻ります。

最後まで読んでいただきありがとうございました!🍋

今までいただいたサポートを利用して水彩色鉛筆を購入させていただきました☺️優しいお心遣い、ありがとうございました🙏✨