見出し画像

いい天気だなぁー。

と、カウンターのガラス越しに外を眺めながら
メロンパンをかじっていた。

出入り口に面している席なんて、
いつもなら選ばないのだが、日曜日のお昼時にそんな贅沢は言ってられない。

先着順入場の映画の上映に来たのだが、
見事私の前の方で定員になり締めきられた。
微笑んで会釈をし、それを問題なく理解したことを伝えた。
しかし本当は、あまりにも配慮にかけた打ち切りの宣告を係の方にされた為、微笑む0コンマ何秒前に私が心の中で呟いた一言なんて誰も想像できないだろう。
世にも怖い女の0コンマ何秒前の世界。

そんな事を経て、メロンパンを
食べている私。

顔をあげれば、出入り口の通路。
5歳くらいの女の子が1人、自動ドアから
でたり入ったりして遊んでいた。

自動ドアが開く方向に、
小さなデザイン空間が設けられている。

意図された、デザイン空間。
子供にとっては、好奇心掻き立てる魅惑の空間。

女の子がその魅惑の空間に入り、
出ようとした瞬間と
ドアが開く瞬間のタイミングが重なってしまった。

思わず、店内に声を響かせてしまった私。
数十秒たってから、ガラス越しに響いてくる
女の子の泣き声。

大惨事にならなくてよかった。
と、思いながら
でも、もし大惨事になっていたら
そのデザイン空間はただの危険な場所という
レッテルを貼られ、様々な処置を施される結果と
なっていただろう。

「躾」という文字が、私はとても好きだ。
国字であるとさっき知った。

中学3年生の時、初めてハイヒールを買ってもらった。いわゆる、「そういうのに憧れるお年頃」。

「まだ早い。似合わないからやめなさい。」と、一触即発で却下する母に毎日呪文の様に唱え続け、心理戦で勝ち取ったハイヒールであった。

7cm上の世界は、想像以上に素晴らしく
ヒールが地面に響く音に陶酔しながら、
地下鉄の階段を上っていた瞬間

横にいた母が鬼の形相で、
「そんなに品のない音をたてて歩くのなら、
今すぐ裸足になるか、周りの方に不快感を与えない歩き方を考えなさい。」

と、しずかーに、ゆっくりと、低いトーンで
告げられた。

ハイヒールは大人の履き物だという事を、
身をもって知り、恥ずかしくなった出来事である。

両親が洋服屋を営んでいたので、
毎日たくさんの大人たちが
生地を選んだり、サイズをはかったり
パターンを合わせにきていた。

私が、お店に連れていってもらえる日の
母との約束は、
「大人の話に口を挟まないこと」
だった。

家庭によって、「躾」は様々であろう。

乗り物に乗っている時に、1mmでも動けば
「降りましょう。」と、言われるし
仮病で習い事を休みたいと言えば、
「じゃあ、自分で電話してお休みしていいよ。私は別に構わないから」と、言われる事は
怒鳴られるより、幼い私にとっては怖かった。
母の顔色を常に伺っていた幼少期ではあったが、
それは全て私の「躾」へと繋がった。

まぁ、厳格そうな私の母なのだが
思想に関してはとことん縛りがなかった。

ある日、そんなに仲良くもないクラスメイトの
お母さんから
「お宅は、門限を設けられていないそうですが、
どういう躾をされているのですか?」

と、電話がかかってきた。


週に一度、電車で片道2時間かけて向かう
習い事をしていた。


成長期真っ只中。
レッスンが終われば腹ペコだ。
友達とファーストフード店へ寄り、
電車に乗れば、地元の駅に到着するのが23時近くになる事もあった。

レッスンが終わり、大都会で遊びたい!
なんて気持ちなんて抱いた事もなかった。
行きの電車の中で宿題をし、
レッスンが終われば友達と真剣にその日のレッスンや、今抱えている自分の課題を打ち明け、
また明日もそれぞれ学校頑張って、レッスンでね!と、別れる。

一生懸命な時に何かが入り込む隙など、
子供にだってないのだ。

で、うちの母はその電話口でこう答えていた。
「私は彼女を信頼しているので、別にそんな事を
気にした事もありません。もしそれが、お宅のお嬢さんにご迷惑をおかけるする様なことが起きたら、なんなりと仰って下さい。」

何故、そんな電話がかかってきたかと言うと
そのクラスメイトは、私が習い事で遅く帰ってくる事を知っており、それをうまく口実としてつかって、他の友達と遊んでいたらしい。

おー!すごい発想だね!賢いね!と、
電話を切った母から話を聞いて、
2人で爆笑した。

母に尋ねた。
私:「私のこと信頼してるの?」
母:「すごくしているよ。人って信頼していれば、
裏切る様な事はしない。まぁ、裏切られたら
裏切られたでそんな時もある!勉強!ふふふ。」
と。



躾の真ん中にあるものは、その相手への信頼。
真っ直ぐな心の前には、
真っ直ぐでしかいられなくなる。

あれ?こんな話しを、ついさっき夜が明けるまでしていたなぁなんて思いながら、

自動ドアの開閉に合わせて、
自動ドアのデザインが悪いのか否か。
世の中折り合いつけていかなきゃ、
何も進まない。
とか、正解のない問題の答えが
出たり入ったりしています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?