言葉の学習プロセスにみるロジカルシンキングの習得方法
ビジネスパーソンが身につけておくべきベーシックなスキルに、ロジカルシンキングがあります。書店ではロジカルシンキングに関する本が平積みされていますし、この時期、新入社員研修などでも必須の講座になっているのではないでしょうか。そこでは、MECE(ミーシー)や帰納法・演繹法、ロジックツリーなどの考え方が紹介されます。
一方でこれらの考え方は、“知ること”と“実践できること”との間に落差があると考えられており、「習うより慣れろ」や「上司から正される経験の積み重ねでしか身につかない」などと言われることがあります。なぜトライ・アンド・エラーが必要とされるのでしょうか。人間が言語を習得するプロセスを題材に、その重要性を考えてみたいと思います。
子どもに「ワンワン(犬)」という言葉を教える場面を考えてみましょう。犬という概念を理解させるためには、例えば、四本足で歩く、尻尾がある、ワンと鳴くなどの特徴が理解できれば良いように思います。しかし、「犬」という言葉も知らない子どもに、「足」「四本」「歩く」「尻尾」「鳴く」などの言葉が理解できるはずがありません。それにもかかわらず、子どもは「ワンワン(犬)」という言葉を習得します。裏を返すと、何が犬であるかを理解するためには、その特徴をすべて理解する必要はないということです。
では、どうやって「犬」という概念を習得するのか。ウィトゲンシュタインという哲学者の言語ゲーム論という考え方によれば、それは「訂正されることによって習得する」ことができるそうです。実際に、子どもが言語を習得するプロセスを見ていると、そのことがよく分かります。
最初は、父親や母親が犬を指さして「ワンワン」と教えることから始まります。この場合、対象となる犬種はさまざまですし、実物の犬だけでなくイラストの犬だったりもします。しかし、子どもは経験を繰り返していくことで、犬の定義を分からずとも、犬らしきものを見たときに「ワンワン」と言えばよいということを学んでいきます。そのなかで、猫を見て「ワンワン」と言ったり、熊のイラストを見て「ワンワン」と言ったりした場合には、「あれはワンワンではなくニャンニャン」などと訂正されます。このようにして、どういう場合に「ワンワン」というのが適切なのかを理解します。「これ(猫)を見たときは『ワンワン』と言ってはいけないんだ」といった具合にです。つまり、「犬」というのは言葉によって定義されたものではなく、ルール化された概念にほかなりません。
そして、ルール化された概念は、ルールそのものが直接的に理解されているわけではなく、ルールと合致した振る舞いができるようになることを通して理解されているということなのです。ルールと振る舞いが合致していなければ訂正され、合致していれば「そうだね」と言われて頭をなでられるといったようにです。
ロジカルシンキングについても、言語の学習プロセスと重ね合わせると、「考え方を理解すること」と「実際に使えること」は異なるという理由が分かるのではないでしょうか。言語の習得と同じく、ロジカルシンキングも非論理的な発言をしたときに訂正され、論理的な発言をしたときに他人に受け入れられるといったように、振る舞いの一致から理解するものだからです。
本記事は、2017年5月11日に掲載したInsight for Dの記事を、note用に許可を得て転載しています。
※元記事:https://d-marketing.yahoo.co.jp/entry/20170511464043.html
(Insight for Dは2020年6月30日に終了予定です)
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