発生生物学。がんと老化。

発生というのは、卵と精子ができてから成体に至るまでというイメージがあるかもしれませんが、本来は生物として死亡するまでを含むようです。

日本人の死因で長年トップを占めているのはがんですが、なぜ人はがんで死ぬのか知っていますか?
がん細胞が毒を出したり、目に見える悪さをするわけではありません。(これが治療の難しい部分でもあるのですが)
実際のところは、通常の細胞と変わらない見た目をして、全く役に立たない細胞を無限増殖させるところに問題があります。そうして重要な器官を機能停止させてしまうのです。

がんの基本的な特徴としては他にもこんなものがあります。
たとえば、浸潤性増殖。これはがん細胞が正常な被膜を持たないために、正常な細胞の隙間を通り抜け、手足を伸ばすように増殖していくことを言います。余計な細胞が増えることによって細胞間の連携が絶たれ、その器官に機能不全を起こす可能性があります。
次に転移。がん細胞として悪性化が進むと血管などを通って体中の別の器官へと移動を始めます。そうして行き着いた先でまた増殖を始めるのです。転移が進行した状態ではその芽を全て摘むことは難しいと言われています。

がんの進行状況について。3つの段階に分けて。
イニシエーション…発がん剤により、ある細胞の遺伝子に変異が入ること。
プロモーション…変異が起きた遺伝子が修復されず、そのまま細胞が増殖してゆくこと。
インテグレーション…細胞増殖を経て変異が蓄積したり、増殖のスピードが上がったりして悪性化が進んでゆくこと。このあたりで転移が始まる。

がん関連遺伝子。
がん原遺伝子…生物に共通に保存されている、変異が入ればがん化してしまう遺伝子。本来であれば生存に重要な遺伝子である可能性がある。
がん抑制遺伝子…がんの活性化を止める遺伝子で、がん細胞ではここにも変異が入っている。ex) p53…細胞周期を止める、プログラム細胞死の誘導、DNA変異の修復。

がん細胞の無限増殖の秘密
正常な細胞のDNAでは、複製の仕組み上末端を複製しきれないため、細胞分裂すればするほどDNAが短くなってゆく複製末端問題が存在する。
そのため元来、末端には遺伝子としては用いられない繰り返し配列テロメアが存在しており、この配列が残っている限り、重要な遺伝子に影響が出ないような仕組みとなっている。つまり、テロメアが短くなってゆくことは細胞の老化を意味する。
しかし、がん細胞ではこのテロメアを伸長してゆく酵素テロメラーゼが発現しており、実質細胞が老化しない状態となっている。

…とまあ、今回はこんな感じです。
がんに人間社会の縮図を見たので、最後にその話だけ。
がんは周りの細胞とコミュニケーションをとらないという性質を持っているらしくそれが悪化を押し進めている要素の一つのようなのですが、これは人間レベルでも起こりうるような気がして。家に引きこもって社会から断絶されたりすると思想が飛躍したり歪んだりしがち、みたいな。
でもがん細胞もそれ自体はコミュニケーションの手段を持っていないだけで、ひとたび必要なものを与えられるとそれができるようになる、という話を知って、ちょっとした希望になりました。

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