どれだけテクノロジーが進化しても、人が人を思いやる心が失われては社会は立ち行かない
LivEQuality代表の岡本です。家を借りられないシングルマザーに低価格で物件を貸す会社と、シングルマザーの自立を支援する認定NPO法人を経営しています。
住まいに困窮されている方々向けの、低価格で気持ちの良い住まい「アフォーダブルハウジング」。
僕には「日本に5年で100億規模のアフォーダブルハウジング市場をつくる」という目標があります。
このビジョンを9/5に開かれたICCサミット KYOTO 2024 ソーシャルグッド・カタパルトでプレゼンし、優勝することができました。
プレゼン準備のために考え抜いたことで、僕が人生をかけて実現したいことが何かを言語化する機会になりました。
それは、社会のリスク志向のマインドセットを覆すことです。
自分の過去の選択、いま取り組んでいる事業、未来に実現したいこと。
そのすべてはこの思いからきているんだと、改めて言葉にすることができました。
このnoteでは、僕のいまのこの気持ちをまとめておきたいと思います。
ICCサミットをきっかけに僕たちを知ってくださった方や、僕たちのことを支援・応援してくれている方々、メンバーのみんなに読んでもらえたらうれしいです。
リスクを見つけ避けるのではなく、可能性を見つけ光を当てるビジネスがのびる
ICCサミットのカタパルトは7分間のプレゼンテーションです。
社会課題、自分の人生、価値観、事業説明、目指すゴール、市場の成長性、事業のレバレッジ感…
あらゆるものを7分で伝えきるにはどうしたらいいか悩んだ僕は、準備段階からたくさんの人にプレゼンを聞いてもらいブラッシュアップを重ねました。
その中で、こんな言葉を投げかけてくれる人がいました。
「で、たくやさんは結局なにをやりたいんですか?」
もちろん実現したいこともやりたいことも、たくさんあります。だから会社やNPOも起業しています。でもこの問いに、一言で、ワンメッセージでこたえることができませんでした。
僕が実現したいことは、突き詰めるとつまり、何だろうーー。
この問いをきっかけに考え抜いたことで、僕が人生をかけて実現したいことは社会のリスク志向のマインドセットを覆すことだと、言語化することができました。
利益を追求する資本主義社会の中で、ビジネスの対象とみなされないことで排除されたり、困窮している人たち。
僕はそういう「見過ごされている可能性」に光をあてて、よりよい社会をつくっていきたい。
ちょっと武士みたいな表現かもしれませんが…自分の命はそのために使いたい。本気でそう思っています。
社会のリスク志向のマインドセットを覆すというのは、具体的にはどういうことか。
例えば、すでに世界的に注目されている企業があります。
普通じゃないということは同時に可能性だという視点で、主に知的障害のある作家さんと共に、福祉から新たな文化創造を目指すヘラルボニーさん。
ヘラルボニーさんは自分たちが掲げる「異彩を、放て。」というミッションを、こう表現しています。
資本主義経済の中では持っている力をいかすことが難しかった知的障害のある方々がもつ、アートの力の可能性に気付いて光を当て、ビジネスとして成立させています。
これだけでもものすごいことですが、僕がおもうヘラルボニーさんの一番すごい部分は「社会のマインドセットを変えている」ところです。
人々は支援や社会貢献というマインドではなく、ヘラルボニーというブランドやデザインそのものに価値を感じて購入する。
「福祉の対象・支援の対象」とみられてきたひとたちが「アーティスト」となることで、「福祉」の捉え方そのものにまで変化を生み出しているところを、本当に尊敬しています。
僕がLivEQualityという、住まいに課題を抱える方々に向けて事業を行っているのも、近い感覚があると思っています。
家を貸して収益を得るというビジネスの中では、仕事や貯金や保証人がないシングルマザーの方々は、リスクがあると判断され、家をかりることができません。
これは状況だけで判断しているから起こることです。その人そのものを見ていない。
一人ひとりの存在をみていけば、本当は働きたいと思っていたり、頑張りたいと思っている個人です。お母さんの働いて自立したいという意欲も、お子さんの未来も、可能性に満ちています。
いま僕がやっている取り組みは、この可能性に光をあてること。
「見過ごされている可能性」に光をあてる取り組みが、いろいろな分野で起こるといいと思っています。
社会にとって本当に必要なことが、ビジネスとして成り立つ世の中になってきていると感じているからです。
お金を持っている人たちだけを相手に商売をするよりも、事業を拡大できて、社会にインパクトも残せる。そういう時代がやってきていると思います。
僕たちも、家を借りられないシングルマザーに市場価格の30%引きで家を貸すことが基本ですが、困窮度が高くない場合には20%引きにして貸すこともあります。
「ここまで困窮度が高い人でないと家を貸しません」と一律で間口を狭めてしまうのではなく、ルールは柔軟に変更します。
世の中にはグレーゾーンに該当することがたくさんあるからです。白黒つけすぎることで、そのスポットに落ちてしまう人がでてきてしまう。
グレーゾーンにあたる人たちのこともホールドしていく寛容さや柔軟性が、社会にとってもビジネスにとっても、ますます重要になっていくと考えています。
なんとかして、今よりもいい社会を次の世代に残すために
人生をかけて、社会のマインドセットを変えていきたい。
そういう自分の思いを話すと「たくやさんはなぜそこまで社会や他人のことを自分事として捉えて頑張れるんですか?」と聞かれることがあります。
僕としては、いい世の中をつくることに貢献できたと思って死にたいというのは当たり前のことすぎて、うまくこたえられない質問です。
深い理由や大きなきっかけがあってそう思うようになったのではなく、ごく自然にそう考えているからです。
子どものときに助けてもらった経験がある人は、大人になってからも何かを助ける仕事に就いたり、人のために行動する確率が高いと聞いたことがあります。
そういうペイフォワードの連鎖を仕事を通じて起こせたら最高だと思っているんです。
例えば、僕たちが取り組む家を借りられないシングルマザーに低価格で物件を貸す事業。はじめての入居者は日本語をうまく話せない外国籍のシングルマザーでした。
とても優秀なお子さんがいて、日本語はペラペラ。その子は僕たちとは日本語でコミュニケーションを取り、お母さんとは英語で話していました。2か国語をなに不自由なく使いこなして、算数が得意。
その子とは、僕が事務所にいないときには「今日はたくやはいないの?」とスタッフに聞いてくるくらい、いい関係ができています。入居してからどんどん元気に明るくなっていったのも印象的でした。
もしかしたらですけど、その子にとって僕たちの存在が何かの原体験になるかもしれない、と思うんです。
それがまた新しい可能性を生むことにつながることがあれば、それは大きな希望だなと。
そんな風に社会や他人のことを思える人を増やしていかないと、限界がきているとも思っています。
一人ひとりが周りへの優しさや、困っている人への思いやりを持って生きていかないと、どれだけテクノロジーで便利な世の中をつくったとしても、もうぎりぎりなところにきていると。
かといって、僕には社会や他人のために尽くしているという感覚はまったくありません。
自己犠牲のような気持ちではなく、自分のためにしていることだからです。
僕は社会の役に立つ事業やソーシャルな仕事がシンプルにすきです。たのしいから、やりたくてやっているだけ。
僕の心が動いて、エネルギーがわいてくることを大切にしたいと思っていて、それがソーシャルの分野だったというだけのことです。
これから先、家を失い新しい家を借りることができずに困るのが自分じゃないなんて、とても思えない。
社会や他人のためというよりも、自分と地続きなことをしている感覚もあります。
noteで繰り返し書いていますが、僕は今のままの株主資本主義には限界がきていると思っています。
貧富の差を生み出し続けている。持つ者はどんどん豊かになり、持たざる者はどんどん貧しくなる。しかもこの貧富の差は世代を超えて引き継がれ、連鎖している。
そういう世界に生きて何もしないでいることを、僕は幸せだと思えない。
資本主義の角度がたった3度でもソーシャルに向かうだけで、世界は変わる。僕はそういう世界をつくることに加担したい。
もちろんいいことばかりではありません。簡単にうまくいくわけではない。
例えば、貧困問題の解決の成功モデルとして世界的に広がったマイクロファイナンス。低〜中間所得者層の個人事業主や零細企業に、少額ローンを貸し出す小口融資の仕組みです。
通帳すら持てなかった人が銀行口座をつくり、事業活動に取り組んで自立ができる。社会的にも素晴らしい取り組みです。
このマイクロファイナンスの取り組みも、厳しい取り立てによって自死を選ぶ人が出るという問題が起きていると聞きます。
どんなにスキームがすばらしくても、人が運用する以上、どこまでいっても人の問題がうまれます。
だから僕はマインドセットが大切だと思っています。
この社会のリスク志向のマインドセットを覆したい。
一人ひとりのマインドセットに変化を生み出して、よりよい社会をつくっていきたい。
これがいまの僕の思いです。
僕がなぜ・どんな事業に取り組んでいるのかは、このnoteにまとめました。
ICCサミット KYOTO 2024「ソーシャルグッド・カタパルト」で優勝したときのプレゼンは、このnoteで文字おこししています。
一人ひとりのマインドセットに変化を生み出したいという気持ちで、グロービスの講師も続けています。