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マラソン・ウルトラマラソン中の嘔気や下痢~質問の回答編②

ウルトラランナーがお困りなのは腹痛だけではないと思います。
気持ち悪くなったり、下痢をしたり血便が出たり・・・

それはもちろんETAPとは違う病態です。
一つ一つみてゆきましょう。
2022年にNicholas B.Tillerらの書いたウルトラマラソンと栄養のレビュー論文を参考に書いてゆきます)

1.胸やけ・嘔気・下痢

ウルトラマラソンの嘔気や下痢の場合は、胃腸への血流低下と、機械的な振動が主原因と言われています。
血流が低下して動きが悪くなった胃腸に、補給のための食事が入っきてさらに振動までするので、嘔気が出たり下痢をするわけです。

ではどうすればこういうことが起きにくくなるのでしょうか。
それは素因、腸内微生物、食事内容やトレーニングによると言われています。
一つ一つみてゆきます。

 1-1.素因

素因、体質、生まれ持ったもの。それも大きいようです。
例えば胃の形をとってみても大きく分けて4つの型があり、胸やけしやすい人もいれば、胃もたれしやすい人、すぐに腸に流れて下痢しやすい人まで様々です。

鎮痛剤②

同じように補食をとっても、胸やけする人から、お腹が張る人、もたれる人など様々いるわけです。

また元からお腹が弱い人は、ウルトラマラソンでもその症状が出やすいという文献もあります。
元々の生まれ持ったものや、お腹の強さがウルトラマラソンにも反映されるようです。

 1-2.腸内細菌

腸内細菌を含む食品や薬剤が、マラソンに有益であることは以前から言われています。特にマラソンによる免疫低下、上気道炎の罹患率を下げるという文献が最も多いのですが、胃腸の症状も低下させると言われています。

フルマラソンの研究ですが、Lactobacillus acidophilus、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium animalissubspの3菌種を含むカプセルを4週間服用すると、終盤1/3での消化器症状の出現が減少したとの報告があります。

またトレーニング期間から日常的にLactobacillus rhamnosus GGを摂取していると、トレーニング期間中に胃腸症状をおこす日が減少したという報告もあります。

これはランニングにより胃腸の血流が低下しても、腸管の粘膜が障害されにくくなるのではないかと言われています。主に下痢をしやすい人、お腹が張りやすくなる人について有効なのだと思います。

 1-3.栄養戦略

食事の摂取の有無や内容で、マラソン中の腹痛・下痢がおこってしまうのは周知のとおりです。
ですがマラソン・ウルトラマラソンにおいては、適宜栄養補給が勧められていますが、いずれも胃腸の症状が出ない程度にとされています。
ではウルトラマラソンで推奨される栄養補給と、補給をしても胃腸症状が出ないようにする対策はどんなものがあるのでしょうか。
列挙していきたいと思います。
(下線のないものはNicholas B.Tillerらの書いたウルトラマラソンと栄養のレビュー論文より引用)

まずは推奨される栄養をざっと挙げてみます。
・レース前は胃腸症状を鑑みて、低GI値の炭水化物中心の食事。高脂肪や食物繊維の多いものは控える。
・ウルトラマラソンでの摂取推奨量は200-400kcal/時、200kcal摂取できない場合は低血糖で完走できない可能性がある。
摂取量が多い方が、倦怠感の出現を遅らせ、回復を改善させた。
・レース前の補食とは違い、ウルトラでは脂肪の摂取をしていたランナーの方が完走率が高い(完走者の方が、非完走者の3倍脂肪を摂取していた)。
・たんぱく質もマラソンによる筋損傷を抑えるほか、特にBCAAは代謝の潤滑化、眠気や倦怠感の軽減などの可能性も言われている。
・結果、炭水化物30-50g/時+たんぱく質5-10g/時+脂肪の摂取が推奨される。脂肪は距離が長いほど多い方がよい。
・多くの場合、食べたいものが体の不足した栄養素やミネラルを反映している(後半は甘いものより美味しいものを好む傾向にある)。

それにより胃腸症状を出さないための戦略
トレーニング中にレースで食べるドリンクや補食を食べ慣れておく。
・普段から整腸剤や同等の補助食品を摂取する。
・飲料はOS-1程度の濃度のものまでにする。
・含有の糖質は多種ものに(グルコース、フルクトース、マルトデキストリンなど)
・脂肪は飽和脂肪・酸化脂肪のものは控える。
・食物繊維は少なめに。
・鎮痛剤、カフェインは控える。
・胃腸症状が出たら、減速する。

ということになります。
結局その人その人で食べれる補食の量・種類は異なり、出現する症状も異なります。足が痛くなったら原則せざるを得なくなるように、胃腸のトラブルも調子が悪くなったら原則せざるを得なくなることがある訳です。

2.嘔気は低ナトリウム血症の場合も

嘔気は胃腸の問題でのみおこる訳ではありません。塩分不足の、低ナトリウム血症でも嘔気、頭痛、脱力といった症状がでます。
低ナトリウム血症は、(体から出ていく尿や汗の塩分)>(摂取する食事や水分の塩水)だった時におこりやすくなります。

水分摂取は環境や運動強度、その個人の体重や体質より決めなくてはなりませんが、目安はウルトラマラソンの場合は約20分ごとに150〜250 mLと言われています。塩分の摂取は、水分摂取を経口補水液にしたり、スポーツドリンク+塩分サプリにしたりする手段もありますが、ウルトラマラソンの場合は特に脂肪分の多い補食は塩分が高い傾向にあり、そういったもので代用できるかもしれません。

いずれにしてもその個人の、その環境にあった必要な水分量・塩分量を把握して、計画的な水分・塩分の摂取が推奨されています。ですがウルトラマラソンは、特に後半で主に胃腸症状のため水分摂取が完遂できないという文献、ひいては結果的に長距離の方が低ナトリウムを来たしやすくなると言われています。

3.以上を踏まえて、まとめ

ウルトラマラソンは足だけの戦いではありません。
胃腸の持久力の戦いでもあるわけです。

ウルトラマラソンをキロ6分で走るランナーが、突然キロ4分で走ったら最後まで持ちません。

同じように1時間におにぎり1つ程度しか食べられないランナーが、とつぜん豚汁を3杯飲んだり、本番だけ高価なモルテンのドリンクを導入したら胃腸が持たないわけです(ちなみに豚汁は食物繊維が豊富!!自分はランニング中には食べません)。
普段から走りながら摂取する補食と、同じような内容・量の補食を本番でも摂取するようにして下さい。

走っている最中に下痢しやすいなら
・普段から整腸剤やそれと同じような食品を摂取する。
・飲水は経口補水液までの濃度で。
・含有の糖質は多種ものに(グルコース、フルクトース、マルトデキストリンなど)
・鎮痛剤は控える。

走っている最中にお腹が張るなら
・普段から整腸剤やそれと同じような食品を摂取する。
・含有の糖質は多種ものに(グルコース、フルクトース、マルトデキストリンなど)
・食物繊維は少なめに。

走っている最中に嘔気や胸やけするなら
・補食の脂肪分を少なめに
・摂取する1回の水分量を少なくする(回数を多く)
・カフェインや鎮痛剤を控える
・胃薬を服用する

そのように心掛けてはいかがでしょうか。






戦略としては、

・普段から高炭水化物食に慣れておく。

・複数の種類の糖類で摂取する。

・人によっては下痢に低FODMAP食が効く

・ラクトバチルス属およびビフィズス菌を普段から摂取

・鎮痛剤をアセトアミノフェンにする。

今のところのエビデンスとしては、こんな感じでしょうか。



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