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視る‐05 動く対象の捉え方

「ボールをよく視て!」飛んでくるボールをキャッチするとき、あるいは打ち返すとき、よくこのような言葉を耳にします。「ボールをよく視て!」の言葉通り、ボールをよく視てしまうと、視覚としても、運動としてもボールを捉えづらくなることがあります。なぜでしょうか?

早速2人組で実験してみましょう。

パートナーは手を開き、プレイヤーの顔の高さに合わせます。この状態で、パートナーはゆっくりと、少しずつ(1秒に数ミリ単位で)手のひらを前後に動かします。

 A:プレイヤーはパートナーの「手」だけを視るように視線を合わせて行います。
 B:プレイヤーはパートナーの「手」と「手の背景」の両方を視るように行います。

AとB、どちらが動きをとらえやすかったでしょうか?

これはBでしょう。Aは動く対象だけに視覚情報をフォーカスしてしまっています。動く対象を的確にとらえるには「動かないもの」と「動くもの」両方をとらえる必要があります。

脳は比較で理解しようとしますから、動きをとらえるには、動く対象物と動かない背景との「差」を入力しなければならない、ということなのです。

動く対象をとらえるのが上手な人は、動かない景色をインプットして、動くと動かないの(差を含めた)関係性をとらえているのです。


私たちの「視る」には、2つのシステムがあります。

ひとつは「じっくり細かく視る」が得意な中心視です。視線上とその周囲の狭いエリアを視るときに働く中心視は、対象を明瞭に、細部までとらえ、色や形を識別するのに適しています。いきなり黒い物体が視野に飛び込んできたとき、「それが何なのか」の見極めは大切です。こういうとき、対象物を視線上でとらえる中心視が短時間での判断に役立ちます。

 もうひとつは「動きや位置をとらえる」のが得意な周辺視です。視線上とその周囲の狭いエリア(中心視野)を外れた、もっと広い範囲を視るときに働く周辺視は、対象物とその周りを不明瞭かつ大雑把に捉えて、動きや位置を識別するのに適しています。

 飛んでくるボールをキャッチするとき、視覚情報としては、それがボールであることがわかれば十分ですから、視線上でピンポイントでとらえる必要はありません。ボールを含めた全体を視野に収める方が、周辺視が働き、動きやコースを捉えやすくなります。

「ボールをよく視て」しまうと、視線上にボールを捉えてしまい中心視が働く割合が増え、かえって動きや位置、方向がわかりづらくなるのです。

ですから、スポーツ指導の場面では、「ボールをよく視て!」ではなくて、「ボールと背景を大雑把に視て」のほうが、言語化としてはより適切かも知れませんね。(『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』より)

パフォーマンス医学、公開中


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